ピアノを弾くとき、「うまく弾きたい」と思うのは自然なことです。
音を外したくない、きれいな音を出したい、スムーズに弾きたい──。
けれど、その思いが強くなりすぎると、不思議と音が硬くなったり、呼吸が浅くなったりすることがあります。
本来、ピアノを弾くことは“聴くこと”から始まります。
自分の音を聴く。和音の響きを聴く。フレーズの流れを聴く。
その聴く姿勢があるとき、音は自然に流れ、演奏が生き生きとしてくるのです。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
「ピアノが上達するために必要なマインド」を解説します。
「うまく弾こう」とすると起こること
「うまく弾こう」と思うと、私たちは意識を“外側”に向けがちです。
人の評価、間違いへの不安、録音や本番の出来栄え。
その結果、耳が自分の音から離れてしまいいます。
“外側”に意識が向きすぎると、弾く目的が本質からそれてしまう。
“あなたは何のためにピアノを弾きますか?”
“人から良い評価をもらうために演奏するのでしょうか?”
たとえば、難しいパッセージで指を必死に動かしているとき。
「間違えないように」と考えるほど、耳は音を聴いていないことが多いのです。
ですが本当は、指先よりも先に“音を感じ取る耳”を大切にするべきです。
それが、演奏の方向を導いてくれます。
「まっすぐ聴く」とはどういうことか
“まっすぐ聴く”とは、評価や不安をいったん横に置き、
ただ目の前の音をそのまま受け止めることです。
・今、出ている音はどんな響きか
・隣の音とどうつながっているか
・フレーズは呼吸しているか
これらを丁寧に聴くことで、音が自然と整っていきます。
「もっとこうしたい」という感覚が湧いてくるのも、この“聴く時間”の中でしか生まれません。
練習の中でできる小さな工夫
“まっすぐ聴く”感覚を養うために、普段の練習の中でできるいくつか簡単な工夫があります。
- ゆっくり弾く
速さを落とすことで、ひとつひとつの音の響きや指の重みを感じ取れます。 - 目を閉じて聴く
視覚を遮ることで、音の立ち上がりや余韻をより深く感じられます。 - パーツごとに分けて練習する
モチーフや声部ごとに分けて練習することで、細部まで気を配った音が出せます。
こうした小さな工夫がピアノとの対話を豊かにし、「聴く耳」を育ててくれます。
「まっすぐ聴く」=「まっすぐ音楽と向き合う」|筆者の経験談
人前で演奏するとき、つい私たちは「良い演奏をしよう」と思ってしまいがちです。
ですが、そもそも「良い演奏」とは何でしょうか。
・先生から指摘されたことをすべて直した演奏でしょうか。
・ミスなく演奏しきることでしょうか。
・暗譜飛びがなく、最後まで弾くことでしょうか。
私は、上記のどれでもないと考えます。
本当に良い演奏とは、「作曲家が残してくれた音楽と真摯に向き合い、それをお客さんに伝えられた」ときに「良い演奏ができた」と言えると思います。
私は、本番前の自分に言い聞かせている言葉があります。
それは、「上手に弾こうとするのではなく、いまの自分にできる最大の力で、お客さんに作品の良さを伝えよう。」と。
たとえミスなく弾いてその場では賞をいただけたとしても、その先も演奏を聴きたいと思ってもらえることはできません。
「まっすぐ聴く」ことは、お客さんや作品と「まっすぐ向き合う」ことでもあるのです。
まとめ
“うまく弾こう”とするより、“まっすぐ聴こう”。
その意識の転換が、演奏を変え、自分自身の心も変えていきます。
ピアノを通して「聴く」という感覚を深めること。
それが、音楽と長く向き合うためのいちばん大切な土台です。



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