「実は自分の音を聴けていない・・・?」
皆さん、演奏しているときの自分の音を聴けていますか?
「自然に聞こえてくるし、当たり前じゃん。」
これが実はそうでもないのです。
聴くというのは、意識下のもとで初めてちゃんと聴けているのです。
「聴くとはどういうことか知ることで、本当の意味で自分の音を聴けるようになります。
自分の音を聴くことは、よりよい演奏を目指すうえで必要不可欠です。
自分の音を聴けていない人に、名ピアニストはいません。
本当の意味で「聴いて演奏する」とは
「聞く」と「聴く」の違い
たしかに、物理的には演奏しているとき音は聞こえています。
ですが、これは「聴く」ではなく「聞く」です。
「聴く」と「聞く」の違いを皆さんは知っていますか?
「聞く」・・・音を耳で感じ取る。自然に耳に入ってくる。
「聴く」・・・聞こうとして聞く。注意してよく聞く。
引用 「日本国語大辞典」(小学館)より
意識して注意深く聴かなければ、それは「聴いて」いるのではなく、「聞いて」いるだけになってしまいます。
私たち演奏家は、意識して「聴かねば」なりません。
人間は約80%も視覚に頼っている
そもそも私たち人間は、約80%視覚からの情報に頼っているといわれています。
ピアノを弾くという行為は、簡単なものではありません。
視覚に頼って、間違えないように鍵盤や楽譜を見ていることがほとんどです。
ですが、音楽は「耳で楽しむ芸術」です。
そして「耳で作る芸術」です。
弾く、という行為は最終的に耳にうったえかけなければなりません。
音をつくるときに頼りにするべきは「耳」のはずなのに、いつしか視覚だけに頼りきって、実は自分の音を聴けていない、ということが起こります。
ウィーンの先生に言われた「あなたは自分の音が聴けていない」
私が通っていた高校では、有志でヨーロッパ研修旅行というものに参加できました。
私が初めて外国に行ったのは、高校2年生の冬のヨーロッパ研修旅行のときで、チェコのプラハとオーストリアのウィーンへ1週間ほど行きました。
ウィーンでは現地の先生のレッスンを受けることができ、私はウィーン国立音楽大学の教授でいらしたマーティン・ヒューズ先生のレッスンを受けることができました。
私は、ベートーヴェンのピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」の第1楽章を披露しました。
演奏を終えた後、先生から言われた言葉を私は忘れられません。
「あなたは、自分が演奏している音を聴けていない。」と。
当時の私はとても未熟で、先生から一体何を言われているのかわかりませんでした。
それこそ、「聴いているのに!」と思っていました。
そのあとレッスンを受けた、私のライバル的な存在でいつも切磋琢磨していた友人は、
先生から「音をよく聴いているね。」と言われていました。
その時は、本当に悔しかったです。
私と彼女の違いはいったい何なのか。私はそれからずっと考えていました。
今ならわかるその違い
私の演奏には何が足りなかったのか。
聴いていると思っていた私は、本当に自分の音を聴いていたのか。
私は「聴いて」いたのではなく「聞いて」いただけでした。
弾くのに一生懸命になっていて、聴いているつもりになって、右から左に聞き流していただけでした。
ましてや、注意深く聴くということはしていませんでした。
「聴く」ことの重要性もわかっていませんでした。
私にとって音楽は「耳で作るもの」ではなく、いかに指を動かすかになってしまっていたのです。
大学に入りいろんな演奏に触れ、「聴けている」人の演奏とそうでない人の演奏を見分けられるようになりました。
それから、次に紹介する練習法に取り組んだのも、私が耳で聴くということをできるようになった大きな要因でした。
視覚に頼らない練習法
部屋の電気を消して、暗闇のなかでピアノを弾く
これは、私が教わっていた教授の先生から教わった練習方法です。
部屋の電気を消して真っ暗のなかで演奏することで、視覚ではなく聴覚に意識を向けることができます。
暗闇に目が慣れてきてしまうと効果は少し薄れますが、鍵盤が見えない状態でピアノを弾くと、自分の音がよりクリアに聞こえます。
部屋の電気を消しても暗くならない場合は、目を閉じて演奏するのも効果的です。
それから、ゆっくり弾いて注意深く聴くという練習方法もあります。
まとめ
音は自然に聞こえてくるからこそ、「自分の音を耳で聴く」という作業は本当に難しいです。
ましてや「自分の音を耳で聴く」ということの本当の意味を理解して、実践できている人がどれくらいいるでしょうか。
「聞く」・・・音を耳で感じ取る。自然に耳に入ってくる。
「聴く」・・・聞こうとして聞く。注意してよく聞く。
引用 「日本国語大辞典」(小学館)より
人間は約80%視覚に頼っています。
ピアノを弾いている時に自然に聞こえてくるのは「聞く」という行為で、私たちピアニストは自分の音を「聴く」ことが大切です。
注意深く「聴く」からこそ音を作ることができ、人の耳にうったえかけることができます。
自分の音を「聴く」練習として、「部屋の電気を消して、暗闇のなかでピアノを弾く」ことが効果的です。
はじめはとても難しく感じますが、クリアに聞こえる自分の音にびっくりするはずです。
ゆっくり弾いて、自分の音を聴くのも効果的な練習方法です。
そういった訓練を経て、少しずつ自分が出している音を聴けるようにしていきましょう。
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