♯180 「昨日は弾けたのに、今日は弾けない」のはなぜ?ピアノ練習の絶望を乗り越える上達のメカニズム


「昨日はあんなにスムーズに弾けたのに、今日は指が全く動かない……」

ピアノを練習している人なら、誰しもが一度は(いえ、数え切れないほど)経験するこの現象。
あまりの落差に、「自分には才能がないのかも」と絶望してしまう方も多いはずです。

しかし、安心してください。それはあなたが下手になったわけでも、練習が無駄だったわけでもありません。

むしろ、脳が一生懸命に新しい回路を作ろうとしている「上達のプロセス」そのものなのです。

今回は、ピアノ経験二十数年の私の実体験も交えながら、昨日は弾けたのに、今日は弾けない」という現象の正体と、その壁を乗り越えるための心の持ちようについて詳しくお話しします。

筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

「一回弾けた」は、まだ「弾ける」ではない

まず、厳しいようですが大切な事実をお伝えします。
昨日「一回だけ」両手で止まらずに弾けたとしても、それはまだ、脳や体に完全に定着した「弾ける」という状態ではありません

ここで言う「弾けない」とは、具体的には「テンポ通りに、両手で弾ける状態」にまで至っていないことを指します。

昨日の成功は、いわば「脳が一時的に集中力をフル稼働させて、奇跡的に回路がつながった状態」です。

しかし、人間の脳は一晩寝ると、情報の整理を行います。その過程で、まだ定着が浅い「新しい動き」は、一時的に引き出しの奥にしまわれてしまうのです。

「昨日は弾けたのに!」と悔しがる必要はありません。

昨日弾けたという事実は、「あなたの体にはそのポテンシャルがある」という証明です。

日々の練習はその回路を、より太く、より確かなものにするための「補強工事」なのです。

脳の回路が開通するまでには「タイムラグ」がある

ピアノを弾くという行為は、目で見(楽譜)、耳で聴き、脳で命令を出し、指を動かし、さらにペダルで足を使うという、極めて複雑な全身運動です。
この複雑なネットワークを脳内に構築するには、どうしても物理的な時間が必要です。

練習した直後は脳が興奮状態で「できた!」と感じますが、翌日になるとその興奮が冷め、回路がまだ細いことに気づかされます。

この「弾ける・弾けない」の繰り返しこそが、実は上達の正体です。

  • 1日目: 回路の「下書き」ができる(一回弾ける)
  • 2日目: 下書きが薄くなる(弾けなくなる)
  • 3日目: 下書きをなぞって「線」にする
  • 4日目: 線が「道」になる

このように、何度も「弾けない」という絶望を通り過ぎることで、脳の回路は少しずつ太くなり、やがて無意識でも指が動く「安定した状態」へと変わっていきます

今日弾けないのは、あなたが退歩したからではなく、脳が定着に向けて「試行錯誤」している証拠なのです。

プロでも叫ぶ!「あー弾けない!」は日常茶飯事

ここで、私の話を少しさせてください。
私はピアノを二十数年弾き続け、専門的に音楽を学んできました。そんな私なら、新しい曲もスラスラと魔法のように弾けるようになる……と思われがちですが、現実は全く違います

新しい曲に挑戦する時は、今でも皆さんと同じように、来る日も来る日もトライ&エラーの連続です。

昨日できたはずのパッセージが、翌朝には指がもつれて全く動かない。
そんな時、私はピアノの前で「あー!もう弾けない!」と叫んだり、鍵盤を前にして頭を抱えたりすることもあります。

一部の天才を除いて、どんなにピアノが上手な人でも、皆同じように苦労しています。

魔法のように指が動いているように見えるプロのピアニストも、その裏側では「昨日は弾けたのに、今日はダメだ」という絶望を、何万回、何十万回と繰り返してきているのです。

「上手な人は苦労せずに弾いている」というのは幻想です。
皆、弾けない自分にイライラし、それでもまたピアノに向かう。その泥臭い繰り返しの先に、あの美しい演奏があるのです。

絶望を希望に変える「課題クリア」の考え方

「今日は弾けない」という壁にぶつかった時、最もやってはいけないのは、自分を責めて練習を投げ出してしまうことです。

そんな時は、以下のステップで冷静に課題を切り分けてみましょう。

  • 「昨日の自分」と比較しない:
    昨日の成功は一旦忘れましょう。今日の指の状態、今日の脳の状態に合わせて、もう一度「ゆっくり」からやり直せばいいのです。
  • 課題を最小単位に分解する:
    「曲全体が弾けない」と嘆くのではなく、「この1小節の、左手の跳躍がうまくいかない」というように、問題を小さく特定します。
  • 「弾けない」を面白がる:
    「お、今日はここが抜けているな。脳が書き換え中なんだな」と、客観的に自分の状態を観察してみてください。

一つずつ、その日の課題をクリアしていく。
その地道な積み重ねこそが、何よりも確実な上達への道です。

まとめ:ピアノは「できない」を楽しむもの

「昨日は弾けたのに、今日は弾けない」

それは、あなたがピアノという深い山を登っている証拠です。

ピアノに魔法はありません。あるのは、今日できることを精一杯やるという誠実な積み重ねだけです。
二十数年弾いてきた私でも、今なお「弾けない自分」と戦っています。だから、あなたが今日弾けなくて落ち込む必要なんて、これっぽっちもありません

また明日、ピアノに向かってみてください。昨日よりも、今日よりも、ほんの少しだけ回路が太くなっているはずです。
その微細な変化を楽しみながら、一歩ずつ進んでいきましょう

もし、どうしても行き詰まって心が折れそうな時は、いつでも私のLINE相談(無料)へメッセージを送ってください。

「私も今日、叫びました!」なんてお返事をするかもしれません(笑)。
一緒に、この「弾けない時期」を乗り越えていきましょう!

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筆者プロフィール:

4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。


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