♯59 転調を感じて弾くと音楽が変わる|ピアノ中級者のための“音の物語”の楽しみ方

練習法と上達のヒント

ピアノを弾いていて、「急に音楽の色が変わった」「雰囲気が明るく(あるいは暗く)なった」と感じることはありませんか?
その多くは「転調」が起きている瞬間です。

転調とは、曲の途中で調(キー)が移り変わること。

音楽に深みを与え、聴き手に“物語を聴いているような”感覚をもたらします。

4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、

中級者の方が「転調」を感じて弾けるようになるための考え方と具体例を解説します。

転調とは、音楽の中で「主調(メインの調)」が別の調に移ることです。

映画でいうと「場面転換」、小説でいえば「章の切り替わり」。

転調があるからこそ、音楽は“ストーリー”を持つようになります。

クラシック音楽では、主調から近い調(属調・下属調)に移ったり、時にはまったく遠い調へ飛んだりして、曲に変化を生み出します。

最も基本的な転調は「近い調」への移動です。(近親調と呼ばれる)

「近親調」とは、主調からみた属調、下属調、平行調、同主調のこと。

※以下の記事を参考。

クレメンティの《ソナチネ ハ長調 Op.36-1》では、提示部の途中で主調であるハ長調から属調であるト長調に転調します。

ファの♯が入ってきたことでト長調に転調しています。
これによって、音楽の色合いに変化が生まれます。

🔹聴き方のコツ
・ベース(左手)が「ド」中心から「ソ」中心に移る
・音楽の色合いが変わる(ファの♯が入る)

この変化を耳で感じられると、転調の瞬間がつかめるようになります。

この曲では、同じテーマが再現されるたびに、微妙な和声の変化で気分が変わります。

途中で短調に傾く瞬間があり(青カッコ)、まるで“思い出の中の切なさ”を描くようです。

🔹感じ方のヒント
・同じ旋律でも和声が変わり臨時記号が増えると(もしくは減ると)、印象がまったく違う
・転調部分を「切ない」「少し曇る」など、イメージで捉えると◎

前半の穏やかな変ニ長調から、一気に嬰ハ短調へ。

空が急に暗くなり、嵐が来たような世界へ入る――まさに“転調のドラマ”です。
このように遠い調への転調は、感情の高まりや対比を生み出します。

🔹弾き方のポイント
・転調前の静けさを保ち、直後は音色を変える(深く、重く)
・ペダルの響きも意識して、世界が“別の空気”に変わるように

ドビュッシーは、明確な転調というより“色の変化”で曲を描きます。

まるで、光が差し込む角度が変わったような印象です。

🔹ポイント
・臨時記号が増える場所に注目
・和音の“濃さ”が変わる箇所を意識
・転調を「空気の色が変わる」ように感じながら弾く

  1. 低音の動きを追う:左手のベースが変わる場所を意識。
  2. 臨時記号を見つける:♯や♭が増えるときは転調のサイン。
  3. 終止形(カデンツ)を探す:新しいV→Iが出てきたら新調へ。
  4. 曲の雰囲気を捉える:曲の色合いが変わっていると感じたら確認。

上記のことを意識して練習すると、転調をつかみやすくなります。
正直、理論を知らなくてもどこで転調しているか聴けば分かります。

最後に、私が転調の際に気をつけていることをお話しします。

まず、「必ず転調の場所を確認すること」
感じることは大切ですが、なんとなくではなく意識的に転調の場所を頭に入れるようにしています。
そうしなければ、真に構成を理解して弾くことができないからです。

つぎに、「その調がもつ性格や色を考えること」
それぞれの調性には、色があります。
ニ長調は輝かしく、変二長調はやわらかいイメージがあります。

それに加えてそのメロディーや和声がもつ性格を考える。
これは、演奏をするうえでとても大切なことだと思っています。

最後に、「他の調との関係性を考えること」
曲のなかで転調が大切なのは、「前と比べてどのように変化したのか」ということです。

《主調からみて転調した先は近親調(属調や平行調など)なのか、そうではないのか》
そういった関係性を見ることも、演奏するには不可欠だと考えます。

ちなみに私がこういったことにしっかり意識を向けられるようになったのは、大学生になってからです。

大学で友達や先輩の演奏を聴いて、先生方からたくさんの指導をいただいたおかげです。

転調は、作曲家が“音の物語”を描くための大切な仕掛けです。
転調を感じながら弾くことで、音楽が生き生きと動き始めます。

普段の練習から「低音」「臨時記号」「終止」「曲の雰囲気」に注目し、調の変化をイメージしてみましょう。
一曲の中に隠れた“ストーリー”を発見できるはずです。

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