♯218 200年前の誰かと、指先で待ち合わせる。私たちが「クラシック音楽」に心を奪われる理由


「なぜ、クラシック音楽はこんなにも長い間、世界中で聴かれ、演奏され続けているのだと思う?」

かつて私が師事していたピアノの先生に、ふとそう問われたことがあります。
私ともう一人の生徒は、突然の深い問いかけに顔を見合わせ、考え込んでしまいました。

しばらくして、私はこう答えました。

「……今の時代に生きる人にも、通ずるものがあるから、でしょうか」

先生は頷き、こうおっしゃいました。

「そう。流行ではなく、人間にとっての『普遍的なテーマ』を扱っているからなのよ」

また別の先生は、笑いながらこんなことをおっしゃっていました。

「私たちピアニストって、普通じゃないわよね。だって冷静に考えてみて。異国の地の、何百年も前に生きていた、会ったこともない知らないおじさんが書いた曲を、ああだこうだ言いながら一生懸命試行錯誤して弾いているんだもの」

お二人の先生の言葉は、どちらも真理をついています。

たしかに、一歩引いて考えれば不思議な光景です。
私自身、最初は「ピアノを習い始めたから」「技術を上げるために手頃な教材だったから」という、ごく自然な入り口でクラシック音楽に触れ始めました。

しかし、気づけば今、私はクラシック音楽にどうしようもなく心を捉えられています。

筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

時代も国境も超えて響く「人間の本質」

クラシック音楽に対して「敷居が高い」「難しそう」というイメージを持つ日本人は少なくありません。

ヨーロッパへ行けば、道端のストリートピアノや教会の演奏会など、もっと生活に溶け込んだ身近な存在としてクラシックが流れています。

この「文化の厚みの差」が、日本での心理的な距離感を生んでいるのかもしれません。

けれど、もっと多くの人に知ってほしいのです。
クラシック音楽は、決して特権階級のための高尚な趣味ではなく、今の私たちの心に真っ直ぐに届く「生きた感情の記録」であることを。

美しい、愛おしい、切ない、あるいは胸を掻きむしるような苦しみ。

それらは、生まれた国がどこであろうと、性別がどうあろうと、何百年の時が流れようと、人間が人間である限り変わることのない「普遍的な感情」です。

200年前の作曲家が、孤独の中で流した涙。誰かを愛して震えた指先。
その瞬間の感情や想いが楽譜という形で凍結され、時を超えて、今、私たちの指先を通じて再び解凍される。

それは、200年前の誰かと、鍵盤という場所で「待ち合わせ」をしているような、そんな奇跡的な体験なのです。

私がブラームスという「人間」に惹かれる理由

私にとって、その「待ち合わせ」が最も愛おしく感じられるのが、ヨハネス・ブラームスの音楽です。

ブラームスの音楽には、特有の「孤独」が感じられます。けれどそれは、決して冷たく突き放すようなものではありません。心の奥底に宿る、じんわりとした温かい灯火や、不器用なほどの深い愛情。

決して「ハッピー」だけではない、人生の苦みを知っているからこそ鳴らせる、壮大で情熱的なエネルギー。

彼の音楽に触れるとき、私は「これは私の生き方とどこか似ている」と感じ、強く惹かれます。

何百年も前に生きたドイツの作曲家と、現代を生きる私が、音を通じて共鳴する。

この瞬間、クラシック音楽は「勉強」ではなく、私の人生を支えるものへと変わります。

作曲家もまた、一人の「人間」だった

もし、あなたがまだ「自分に合う曲」に出会えていないなら、ぜひ作曲家たちの「人間臭いエピソード」を覗いてみてください。

最近の伝記を読んでみると、大作曲家たちのイメージがガラリと変わるはずです。

「聖人君子かと思いきや、実は不倫に溺れた恋多き男だった」「性格が偏屈すぎて友達が少なかった」「お金に困って借金まみれだった」……。

驚くようなスキャンダルや失敗談が山ほど出てきます。

「えっ、あの大作曲家も、私たちと同じように悩んだり、間違えたりする一人の人間だったんだ」

そう知った瞬間、楽譜に並ぶ音符たちが、急に血の通った言葉として語りかけてくるようになります。

クラシック音楽は、あなたの良き「心の支え」になる

クラシック音楽との付き合い方に、正解はありません。

「なんとなくこの曲の雰囲気が好きだな」
「この作曲家のメロディは落ち着くな」

そんな直感だけで十分です。

自分の心に刺さる作曲家を探す旅は、自分自身の心を探す旅でもあります。

お気に入りの一曲、共感できる一人の作曲家が見つかったとき、クラシック音楽はあなたにとって、どんな言葉よりも力強い「心の支え」になってくれるはずです。

200年前の誰かが残したメッセージを、あなたも指先で受け取ってみませんか?

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筆者プロフィール:

4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。


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