ピアノの本番。
舞台袖で手が冷たくなり、心臓が速く打つ──そんな経験をした人は多いと思います。
「また緊張してしまった」「落ち着いて弾けなかった」と自分を責めてしまうこともありますよね。
ですが、実は緊張することは悪いことではありません。
むしろ、緊張の中には“集中”と“感情”が宿っています。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
ピアノ演奏における緊張との向き合い方を解説します。
緊張は、集中のサイン
人が緊張するとき、それは本番を「大切に思っている」証拠です。
何も感じない演奏よりも、少し手が震えるくらいの気持ちでピアノに向かう方が、
音に熱やエネルギーが宿ります。
実際、スポーツ心理学の研究でも「適度な緊張は集中力を高める」といわれています。
スポーツ心理学の「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」によると、
適度な緊張は集中力を高め、最高のパフォーマンスを引き出すといわれています。
ピアノの本番も同じ。
ステージで感じる鼓動の速さは、心が“今”に集中しているサインなのです。
大切なのは、「緊張を消そう」とするのではなく「緊張と一緒に弾く」こと。
舞台で感じる張りつめた空気の中に、自分の集中が生まれているということに気がつければ、
その緊張はむしろ味方になります。
緊張が音を“生きたもの”にする
緊張すると、音の一つひとつが敏感に感じる瞬間があります。
ペダルの響き、ホールの残響、鍵盤の重み──
普段よりも感覚が研ぎ澄まされているのです。
それは、心が“生の音”に全身で反応している状態。
その瞬間にしか出せない音があります。
本番の音には、練習では出せない呼吸や温度が宿る。
だから、緊張して出た音も含めて、それが“今の自分の音”。
それを受け入れることで、次の演奏がもっと自然になります。
緊張をやわらげる3つの方法
緊張と上手につき合うためには、身体と心の準備も大切です。
本番前におすすめの方法を3つご紹介します。
① 呼吸を意識する
舞台袖やリハーサル中に、深くゆっくりと息を吸い、吐くだけでOK。
呼吸を整えると、自然と筋肉の力も抜け、集中が戻ります。
体を軽くほぐすストレッチも行うとよいでしょう。
② 自分が出す「音」に意識を向ける
自分の心ではなく、“目の前の音”に意識を集中させてみましょう。
緊張している自分にとらわれるのではなく、耳にフォーカスすると過剰な緊張が減ります。
③ 「緊張している自分」を否定しない
「また緊張してる」と焦るほど、体はこわばります。
「緊張するくらい、私は真剣なんだ」と思うだけで、その状態を受け入れられるようになります。
緊張が生む“心の動き”を音に変える
ステージで緊張を感じるとき、私たちはただ不安なだけではありません。
心が動いているからこそ、音に命が宿るのです。
感情が揺れる瞬間にこそ、音楽は人の心に届きます。
完璧な演奏よりも、心の震えを含んだ音の方がずっと深く聴く人の心を打ちます。
緊張は、演奏家にとっての敵ではなく、
「本気で音に向き合っている自分」からのメッセージなのです。
想定しておけば緊張も怖くない|筆者の経験談
私も演奏前に緊張しなかった本番はありません。
緊張しなかった本番があるとするなら、無邪気にただピアノを弾いていた幼少期の頃だけです。
最近では、緊張すると演奏中に足が震えるようになりました。
足が勝手に小刻みに震えてしまうのです。
最初は、「足が震えてしまった、どうしよう」という考えが演奏中頭に張り付いてしまって、良い演奏ができないこともありました。
ですが、なにかのネット記事で見た方法を試したら、足が震えても動じなくなりました。
それは、
・はじめから「演奏中足は震える」ということを想定しておく。
・実際に演奏中に足が震えだしたら、「やっぱり足が震えてきた。でも想定内。」と言い聞かせる。
「もとから足が震えるもの」と思っているので、いざそうなってしまっても動じることなく、目の前の演奏に自然と集中でき、いつしか足の震えは止まっていました。
私の場合は「足の震え」でしたが、本番前や演奏中の緊張・不安についても同じことがいえると思います。
「緊張や不安な気持ちは当たり前で、想定内。」
こう思うだけで、不思議と心が少し落ち着くはずです。
まとめ:緊張は音を輝かせるエネルギー
ピアノ本番での緊張は、誰にでも訪れる自然な反応です。
それを排除しようとせず、受け入れながら集中へと変えていく。
そのプロセスの中で、音は少しずつ“自分らしさ”を増していきます。
心が動けば、音も動く。緊張はその証。
今日もその“ドキドキ”を大切に、ピアノに向かってみませんか。



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