ピアノの楽譜を読んでいると、最初の小節の拍が“足りない”状態で曲が始まることがあります。
これが 弱起(アウフタクト / pickup) と呼ばれるものです。
弱起は、音楽に自然な流れや軽さ、前へ進む推進力を与える重要な仕組み。
この記事では、4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
弱起がどのようにできているか、どんな効果があるか、そして演奏するときのコツをやさしく解説します。
弱起(アウフタクト)とは?
弱起とは、最初の小節が本来の拍より少ない状態で始まることをいいます。
たとえば4分の4拍子なら、本来は「1・2・3・4」と4拍入るところを、
最初が「3・4」だけ、または「4」の1拍だけ、など、拍が欠けてスタートするかたちです。
〈例〉シューベルト作曲/即興曲 Op.90-2

音楽的には「拍の頭(1拍目)に向かって吸い込むような感じ」で始まり、
まるで呼吸の“吸う”側からスタートするようなイメージです。
弱起で前に出た分は、最後の小節が少なくなる仕組み
弱起はただ拍を減らしているのではありません。
前に出た分の拍は、曲の最後の小節で帳尻を合わせます。※時代と作曲家によっては例外あり。
例:4分の4拍子で、1拍の弱起で始まった場合
- 最初の小節 → 1拍
- 最後の小節 → 残りの3拍
→ 合計で1小節(4拍)分の拍になる
このように、曲全体で見ると「弱起で削られた拍が、最後に足されている」状態になっています。
そのため、最初と最後の小節の拍数を見ると、弱起の仕組みが一目でわかります。
弱起が使われる理由
弱起には次のような効果があります。
① 音楽に“前へ進む力”を作る
弱起は、次の強拍へ向かって自然にエネルギーを引っ張ります。
そのため、曲が軽やかに、あるいは躍動的にスタートします。
② フレーズの方向感を生み出す
多くのメロディは弱起 → 強拍という流れでできていて、
話し言葉でいえば「前置き+本題」のような構造を作ります。
③ 音楽を自然に聞かせる
弱起は人間の呼吸リズムにとても近く、
「吸う→吐く」の流れがそのまま音楽のフレーズに対応します。
弱起を弾くときのポイント
弱起を表現するうえで大切なのは、強拍へ向かって流れを作ることです。
単に拍が足りないだけと捉えてしまうと、弱起の動きが死んでしまいます。
● ① 音を“置かず”に、軽く始める
弱起そのものを重くしてしまうと、音楽が前に進みません。
スッと吸い込むように軽く弾きましょう。
● ② 1拍目へ向かう方向感を意識
弱起は“前向きのエネルギー”です。
次の小節の1拍目に軽く吸い寄せられるように弾くのが理想です。
● ③ 指だけでなく全身で拍の流れを感じる
体で拍をとれないと、弱起の方向性が曖昧になります。
レッスンでは、手で拍子を叩かせながら音符を読ませるのが有効です。
拍の流れが身体に入っていない人ほど、弱起の処理は不安定になりがちです。
弾く曲を自分で指揮をふってみるのも、弱起を感じるうえでおすすめです。
初心者にありがちな弱起でのミス(簡単に)
弱起を中心にはしませんが、よく見られる傾向を少しだけ。
- 弱起を強く弾いてしまい、拍頭がわからなくなってしまう
- 弱起があることに気づかず、数え方が崩れる
- 拍の流れを体で感じられず、1拍目との関係が曖昧になる
こうしたミスは、弱起の仕組みと身体感覚がつながれば自然に改善します。
指揮でわかった、アウフタクトの音楽的な意味|筆者の経験談
アウフタクトがどういうものかを知っていても、演奏にまで結びついている人は少ないように感じます。
実際、私がそうでした。
単語としての意味は知っていても、その存在意義がわかっておらず、具体的にどう弾かなければいけないのかということが、私の中の感覚として薄かったです。
私が先生から言われていたのは、「アウフタクトが拍頭に聞こえる」でした。
大学院で指揮のレッスンを受けて、修了後に指揮科のレッスン伴奏をするようになってから、
アウフタクトが持つ音楽的な意味をやっと理解することができました。
指揮を実際に自分で振ってみるとよくわかるのですが、
「アウフタクトは呼吸であって、その後の音楽の流れを作るために必要なんだ」
ということ。
なかなか小さいうちからアウフタクトの音楽的な意味を理解するのは難しいですが、
指揮を取り入れたりして、感覚的に覚えられるとよいと思います。
まとめ|弱起を理解すると、音楽の流れが劇的に変わる
弱起は単なる“拍の省略”ではなく、
音楽の方向性と呼吸を作る大切な設計です。
とくに初心者のうちは、最初の小節を見ただけで
「この曲は弱起だな」「最後の小節で帳尻を合わせるんだな」
と気づけるだけでも、フレーズの理解が深まり、演奏が大きく変わります。
弱起を味方につけると、自然で美しい音楽の流れが生まれます。
ぜひ、次に楽譜を開いたときは「最初の小節の拍」に注目してみてください。
★お知らせ★
11月29日(土)19時~ より東京の渋谷にある「渋谷美竹サロン」にて「橋本智菜美×塩木ももこ ジョイントリサイタル」が開催されます!
大学・大学院同期の塩木さんとのコンサートは初めてです。
それぞれソロ曲も演奏しながら、連弾も弾きます。
あっという間のコンサート間違いなしです!
チケット絶賛お申込み受付中。
お申し込みの際は、chinalustig.bbb16@gmail.com、もしくはこちらのブログの問い合わせフォーム、またはコメントよりお願いいたします。


コメント