ピアノを弾いていると、「ペダルを踏むと音がにごってしまう」という悩みをよく耳にします。
せっかく丁寧に弾いても、音が重なって濁ってしまうと全体の印象がぼやけてしまいますよね。
ペダルは音を豊かにする魔法のような存在ですが、使い方次第で演奏を台無しにもしてしまう繊細な要素です。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
ペダルで音がにごる原因と、その対処法をわかりやすく解説します。
ペダルがにごる主な原因3つ
1. 踏み替えのタイミングが遅い
もっとも多い原因は、「踏み替え」が遅れていることです。
ペダルを踏みっぱなしにしていると、前の音の響きが次の音にかぶり、結果として音が濁ります。
ポイントは、“手より少し遅れてペダルを踏み替える”こと。
音を弾いた直後にペダルを上げ、すぐ踏み直す。このわずかなタイミングの差が、響きを美しく保つコツです。
このペダルの踏み方を「レガートペダル」といいます。
特にバッハやモーツァルトなどのクラシック作品では、ペダルを必要最小限にとどめることで透明感が生まれます。
2. 踏み込みすぎている
ダンパーペダル(右ペダル)は、少し踏むだけでも音が響きます。
しかし、深く踏み込みすぎると、すべての弦が共鳴して音が混ざりすぎることがあります。
アップライトピアノなどでは構造上、反応が敏感すぎる場合もあります。
そんなときは「ハーフペダル(半分だけ踏む)」を試してみましょう。
自分のピアノで、どの位置まで踏むと響きがきれいになるか、耳で確かめることが大切です。
3. 響く音のバランスを聴けていない
ペダルを使うと音が長く伸びる分、「耳が“響きに慣れてしまう”」ことがあります。
特に練習のとき、部屋の響きが強いと、実際よりきれいに聴こえるため注意が必要です。
録音して聴くと、「あれ、こんなににごってた?」と気づくことも多いでしょう。
客観的に聴く耳を育てることが、美しいペダリングへの第一歩です。
ペダルで音をにごらせないための練習法
● 手だけで練習して、まず“音のつながり”を確認
ペダルを使う前に、まずは手の動きだけで音を自然に繋げられるか確認しましょう。
指でつなげられない部分を、ペダルで補うという意識を持つことが大切です。
ペダルはあくまで“助け”であって、“頼り”ではありません。
● ゆっくりと「ペダルのタイミング」を身体に覚えさせる
テンポを落とし、一音ずつ踏み替えのタイミングを丁寧に練習してみましょう。
ペダルを上げる瞬間に耳を集中させ、「前の響きが消えて、次の音が立ち上がる」感覚をつかみます。
この“間”を感じられるようになると、どんな曲でも濁りが少なくなります。
テンポが速すぎると音が聞こえづらいので、必ずゆっくり確認しましょう。
● 録音して、響き方を確認する
自分の演奏を録音し、聴いてみましょう。
演奏中よりも冷静に聴けるため、にごりや響きすぎを客観的に判断できます。
小さなスピーカーではなく、ヘッドホンで聴くとより正確に響きのバランスを確認できるでしょう。
知らずにペダルがにごっているのは、聴けていないから|筆者の経験談
わたしたちは、何も意識しなければ自分の音を聴いているようで聴いていません。
「聴く」ということは、ただ耳に流れてくるのではなく「意識的に注意深く聴く」こと。
私もよく先生から「ペダルのにごり」について指摘されます。
その時に合わせて言われるのが、
「もっと音をよく聴きなさい。」
私はペダルのにごりを指摘されたとき、たいていそのことに「気がついていない」ことが多いです。
「あれ?」と思って録音を聴くと、たしかににごっている…
私はそのとき、
「ああ、やっぱりまだまだ自分の音を聴けていないんだな。」と、とても反省します。
これは普段の練習で、どのような速さでどういった練習をしているかということも関係していると思います。
「速く弾く」≠「注意深く聴く」
速く弾くことと、注意深く聴くことの両立はなかなか難しい。細部となれば、なおさらです。
ついつい通しの速い練習をしたがる自分を今後も戒めて、自分の音をよく聴いて練習をしたいと思っています。
まとめ|ペダルは“音の余白”をつくる道具
ペダルは、ただ音を長く伸ばすものではなく、響きの空間をつくる道具です。
上手に使えば、ひとつの音の中に温度や空気、感情まで宿ります。
けれど、そのためには“にごらせない耳”を育てることが欠かせません。
今日から少しだけ、ペダルを踏むときに耳を澄ませてみましょう。
音がほどよく溶け合い、クリアで美しい響きが生まれるはずです。





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