♯86 指導することで自分も育つ ― ピアノ教師として感じる「学びの循環」

ピアノ教育とレッスンの工夫

ピアノを教えるようになってから、私はずっと感じていることがあります。
それは、「指導することで、自分自身も育っていく」ということです。

レッスンは、生徒に何かを伝える時間であると同時に、自分の音楽を見つめ直す時間でもあります。

4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、

「ピアノ教師として感じる学びの循環」をお伝えします。


生徒の「なぜ?」が、自分の問いになる

レッスン中、生徒からの素朴な質問にハッとさせられることがあります。
「どうしてこの音を弱く弾くの?」「どうして指使いは守らなきゃいけないの?」
こんなふうに聞かれたとき、私は自分の中にある“当たり前”を一度ほどきます。

説明しようとすると、言葉にするために自分の感覚を整理しなければなりません。
それはまるで、音楽の根っこを掘り下げていく作業のようです。

伝えることで、自分の理解がより深まる――この感覚が、ピアノ指導の魅力のひとつだと思います。


教えることで「聴く力」が磨かれる

生徒の音を聴くとき、私は注意深く集中して聴いています。
小さな音の違い、フレーズの流れ、ペダルの響き……。
他人の演奏を客観的に聴くことで、自分の耳の精度も自然と上がっていくのです。

特に、生徒が苦労している箇所を一緒に分析するとき、
「なぜ弾きにくいのか」「どのように手を使えば自然に流れるのか」など、
自分自身の演奏技術にも新しい発見があります。

人に教えることは、自分の演奏を更新するための学びの場でもあります


生徒の成長が、教師の原動力になる

生徒が少しずつ変わっていく姿を見るたびに、私の中にも新しい目標が生まれます。
「この子の音をもっと輝かせたい」「自分ももっと深い音を出せるようになりたい」――。
生徒の成長は、教師にとっても大きなモチベーションになります。

また、年齢や背景の違う生徒と関わることで、
音楽をさまざまな視点から見つめることができます。

子どもたちの純粋な感性に触れると、
“うまく弾くこと”よりも“音楽を楽しむこと”の大切さを思い出させてくれます。


教えることは、自分を磨くこと

ピアノを教えるということは、単に技術や知識を伝えるだけではありません。

相手の中にある音楽を引き出し、自分の中にも新しい気づきを見つける。
そこには、教える人と学ぶ人の間に生まれる「学びの循環」があります。

指導者もまた、成長し続ける演奏家のひとり。

教えることを通じて、音楽の奥行き、そして人との関わりの深さを学んでいく――
それが、ピアノ教育の何よりの魅力ではないでしょうか。


教え、教われる|筆者の経験談

日頃から生徒さんたちを教えていて、
「生徒さんに言っているようで、実は自分に向かって言っている」ということがよくあります。

たとえば、【練習の仕方】。
「速く弾き飛ばす練習をするのではなく、音の意味を考えてゆっくり耳を使いながらピアノをきくんだよ。」

私は、もともとせっかちなところがあり、速い練習ばかりして先生から注意を受けることが多いです。
このように自分と似たところでつまづいている生徒さんを見かけると、指導をしながら自分にも言い聞かせています。

そうして他人の改善できる箇所を客観的に見ることで、自分の演奏のときにも気がつくことができるようになります。

それから、教えることのメリットとして、
人に何かを伝えようとすることで自分の考えがより明確になることがあげられます。

「なんとなく」でやれていたことも、説明なしで「なんとなく」では生徒さんには伝わりません。
そこを言語化ができるようになると、「なんとなく」から「こうだからこう弾く」という確固たる意図が生まれます。

教わる生徒さんだけでなく、教える方も学びをたくさん得ていると感じています。


まとめ

  • 教えることで、自分の理解が深まる
  • 生徒の音を聴くことで、自分の耳が育つ
  • 生徒の成長が、教師のモチベーションになる

ピアノ教師として過ごす日々は、
誰かを導くようでいて、実は自分自身も導かれている時間。

これからも、生徒とともに音楽の道を歩みながら、
“教えることの学び”を大切にしていきたいと思います。

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