ピアノを学ぶうえで、「いつ和声を学ぶべきか?」という質問をよく耳にします。
結論から言うと、和声はできるだけ早いタイミングで触れておくことが理想的です。
難しい専門用語を丸暗記する必要はありませんが、和音の仕組みを小さい頃から少しずつ理解していくことで、音楽の感じ方も演奏の質も大きく変わっていきます。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
和声を学ぶべき理由と最初のステップについて、お話しします。
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■ 和声を知らないと「曲が弾けない」本当の理由
ピアノを弾くとき、私たちはたくさんの音を同時に目で追い、指で押さえ、耳で聴き取っています。その中で、演奏の土台となるのが【和声(ハーモニー)】です。
和声の流れを理解せずに楽譜を読むと、
・ただ音符を追うだけになる
・音楽の方向が感じられない
・強弱や歌い方に説得力が生まれない
という状態になりがちです。
逆に、和声がわかっていると、
・曲の“動き”が自然に感じられる
・どこが安定で、どこが緊張なのかが見える
・表現の根拠が生まれる
ため、音楽が一気に立体的になります。
つまり、和声は楽譜の裏側にある物語であり、
それを知らないまま演奏するのは、背景を知らずにセリフだけ読むような状態なのです。
■ 小さい頃から和声を学ぶべき理由
和声というと、専門性が高く、大人になってから学ぶものというイメージもあります。
しかし、実際には小学生や幼児でも理解できるレベルから入り、少しずつ積み重ねていく学び方が最適です。
音楽の聞き分けは幼いうちほど柔軟で、
「この響きは落ち着く」「この音はちょっと緊張する」
といった感覚的な理解が自然にできていきます。
そして、この“感覚的な理解”こそ、後から本格的な和声に入るときの土台になります。
和声は、後から一度に詰め込むものではなく、少しずつ染み込ませていくものなのです。
■ 学び始めは「Ⅰの和音」と「Ⅴの和音」で十分
和声というと複雑なコード記号を思い浮かべるかもしれませんが、
最初はとてもシンプルで大丈夫です。
音楽の多くは、
- Ⅰ(トニック)=家・安定
- Ⅴ(ドミナント)=外・緊張
という二つの和音でかなりの世界が成り立っています。
ピアノを始めたばかりの子でも、耳で感じることができる
ピアノを始めたばかりの子でも、
「この響きは落ち着くね」「なんか戻ってきたくなるね」
と、耳で感じて理解できます。
この安定と緊張の感覚を掴むだけで、
・フレーズの歌い方
・強弱の流れ
・音の方向感
といった表現が自然に変わってきます。
■ 次のステップは「属七」「Ⅳ」…無理なく広げていく
ⅠとⅤの関係がわかってくると、次は
- Ⅴ7(属七の和音)
- Ⅳ(サブドミナント)
などに少しずつ広げていきます。
一気に難易度を上げる必要はない
「どうしてこの響きが次にⅠに戻りたがるのか」
「Ⅳが入るとどんな雰囲気になるのか」
を耳で感じ取りながら、少しずつ増やしていくことが大切です。
特にⅣが加わると、音楽の色が一気に豊かになり、伴奏づけもより自由になります。
■ 実は、多くの曲は「Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ」だけで伴奏づけできる
有名なポップスでも、クラシックでも、童謡でも、
Ⅰ(T)・Ⅳ(S)・Ⅴ(D) ※T→トニック、S→サブドミナント、D→ドミナント
の三つの和音だけで成立している曲はとても多いです。
この三つがわかれば、
・簡単な伴奏をすぐにつけられる
・即興演奏がしやすくなる
・曲の構造が見えるようになる
ので、音楽に対する理解が飛躍的に深まります。
「和声は難しいもの」「大人になってから勉強するもの」
というイメージがあるかもしれませんが、実は 最初の3つの和音だけで世界が大きく開ける のです。
■ 和声を知ることは、演奏を“自分の言葉”にすること
和声を学び始めると、自分の演奏がどんどん“説明できる音楽”へと変わっていきます。
「どうしてここを強くしたいのか」
「なぜここで緊張させたいのか」
その理由が、自分で理解できるようになります。
それはまるで、
外国語の文章を“意味のわかる母語”として話せるようになる感覚に近いものがあります。
簡単なところから始めれば、演奏は変わる|筆者の経験談
私が本格的に和声の勉強を始めたのは、音高時代、高校2年生からでした。
そもそも「難しい」とは周りから聞いていて、実際に学び始めると、確かに最初はとても難しく感じられました。
「トニック?Ⅰの和音?なんぞや?」といった具合でした。
ある程度大人になってから、理論として和声に接すると難しく感じるけれど、
小さいうちからせめて「ⅠとⅤ」の和音を知っているだけでも、
その先の学びのハードルが下がるのではないかと思います。
私は、進んでいる生徒さんには実際にいくつかの簡単な和声を楽譜に書かせています。
そうすると和音が出てきたときに「ああ、これね。」と納得感をもって練習することができるからです。
実際に生徒さんの譜読みへの抵抗感が薄まっているように感じられます。
和声は難しい。でも簡単なところから少しずつ始めれば、演奏は変わる。
私はそう信じています。
■まとめ| 和声の学習は早く、少しずつ
和声は、特別な才能がなくても誰でも学べます。
むしろ、早くから触れておくことで、
楽譜の読み方も、演奏の表現力も、音楽の感じ方も大きく変わります。
ⅠとⅤだけでいい。そこから始めよう。
和声はあなたの音楽を確実に豊かにし、演奏に深い説得力を与えてくれます。




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