♯114 意外と知られていない「調号の本当の役割」|音楽が一気に読みやすくなる理由

音楽の知識と楽しみ方

楽譜を開いたとき、まず目に入る「調号」
どの曲にも当たり前のように書かれている記号ですが、実は“単なるシャープやフラットの印”以上の大切な役割を持っています。

4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、

意外と知られていない「調号の本当の意味」と、知るだけで譜読みがラクになるポイントを紹介します。


■そもそも調号とは?

調号(ちょうごう)とは、その曲をどの音階(スケール)で作るか を示すサインです。
ハ長調なら何もつかず、ト長調なら♯1つ、ヘ長調なら♭1つ…というように、調性によって決まったパターンがあります。

でも実は、調号の目的は単に「何の音に♯や♭がつくか」を知らせるためだけではありません。


■意外と知られていない“本当の役割”

① その曲の「重心(響き)」を決める

調号は、曲全体がどんな響きを中心に進むのかを示します。
ハ長調なら明るい純粋な音階、短調なら落ち着いた・陰影ある響きがベースになります。

つまり調号を見るだけで、
「この曲はどんな空気を持った音楽なのか」
を先に理解できるわけです。


② 読むべき音を“省略して書く”ための記号

もし調号がなかったら…
楽譜のあちこちに、毎回毎回シャープやフラットを書かなければなりません

例えば、ロ長調(♯5つ)で調号がない場合、
譜面中の ファ・ド・ソ・レ・ラ に全部シャープを書く必要があります。

読みづらくなるどころか、とんでもなく複雑 になります。

調号のおかげで、譜面がすっきりし、必要な情報だけを集中して読めるのです。


③ “曲のゴール地点”を教えてくれる

調号=曲のホーム(主調主音)を示すサイン

たとえばト長調なら「ソ」に落ち着き、
ニ短調なら「レ」に帰ってくるように感じます。

調号を理解していると、
「どこに向かって音楽が進んでいるか」
が自然に分かり、フレーズの方向性もつかみやすくなります

これは特にピアノの表現に大きく影響します。

調の前につく「ハニホヘトイロハ」

ハ長調の「ハ」は「ド」のこと。
つまり、長調や短調の前に付く「ハニホヘトイロハ」は、「ドレミファソラシド」のこと。


■調号を見るだけで“譜読みが早くなる”理由

調号をただの記号として見ている場合、
譜読みではその都度、♯・♭の読み替えをする必要が出てきます。

でも、調号を“スケールのキット”として捉えると、
読むべき音が最初から頭の中で整理されます。

調号を理解して譜読みすると…

  • 指が迷わない
  • 事故(臨時記号)にすぐ気付ける
  • 和声進行が読みやすい
  • 曲の性格が最初からつかめる

つまり、調号を知るというのは、
曲を読むための地図を手に入れる ことと同じです。


■短調の調号は“見た目よりも難しくない”

短調は長調と違い、
「同じ調号で3種類の音階(自然・和声・旋律)がある」
ため、難しく感じられがちです。

でも短調の調号は、

  • 主音がどこか(ラ・レ・ミ…)
  • ♭や♯がいくつか
  • “平行調”である長調は何か

これだけ覚えておけば整理できます。

例:イ短調 → 調号なし(ハ長調の平行調)

短調の調号は“長調のおともだち”なので、
慣れるほど一気に理解が進みます。

平行調とは

同じ調号を共有する「長調」と「短調」のペアのこと。
長調の主音から短3度下の音が、同じ調号を持つ短調(平行調)の主音です。
〈例〉ハ長調→(ド・シ・ラ)→イ短調
   ト長調→(ソ・ファ・ミ)→ホ短調


■調号を勉強するなら「ハノン」が最強

調号の理解を深めたい人に、もっともおすすめなのが
ハノン(The Virtuoso Pianist) です。

特に 39番の“全調の音階” は、

  • 長調12
  • 短調12

合計24の調が“網羅的に”書かれています

これは、調号の仕組みを身体で理解するのに最適。
毎日少しずつ触れるだけで、

  • 各調の響き
  • 指の感触
  • ♯と♭の配置
  • 平行調の関係
  • 調ごとのクセ

が自然と身につきます。

■ドイツ音名も一緒に覚えると便利

ハノンは ドイツ語表記(C・D・E・F・G・A・H) で書かれているため、
調号を学びながら音名も同時に覚えられるのが大きなメリット。

たとえば:

  • B(ベー) → 変ロ
  • H (ハー)→ シ
  • Es (エス)→ 変ホ
  • As (アス)→ 変イ

曲分析や海外版楽譜でも役立つ知識なので、
調号とセットで覚えておくと理解が一気に加速します。


私が「調」や「調号」を理解できるようになるまでの道のり|筆者の経験談

私が「調」について最初に認識したのは、ハノンの中です。
といってもハノンに書いてある音を、なんとか追って弾いているだけでした

ハノンの音階練習の最後にある各調のカデンツは特に苦戦した記憶があります。
カデンツとは…曲を安定や終止へ導くための和音進行で、音楽の区切りや締めくくりをつくる役割を持つ。

調号について意識を向けるようになったのは、
音高受験に向けて取り組んでいた「聴音」のときでした。

自分で調号を書き入れなければならなかったため、自分流でなんとか各調号を覚えました

このように苦労して「調」や「調号」を覚えていったわけですが、
今では、各調が持つ和声感や音(特に♯や♭がつく音)の違いが体に染みついていて、
何も見ずとも弾くことができます

曲を演奏していても「ああ、この部分はEs dur(変ホ長調)だな」と
瞬時に見抜くことができます。

「Es durだったら柔らかくて明るいこんな響きかな~」といったように
イメージを持ちながら練習することもできます。

覚えるときは苦労したけれど、一度体に染みつけばそれはもう私のもの
練習する際の曲への理解にとても役に立っています。

ぜひ、これを読んでくださっている皆さんにも
調や調号についてもっと理解を深めていってほしいと願っています。

■まとめ

調号はただの♯や♭の集合ではなく、
曲の響き・方向性・読みやすさを支え、
音楽全体の“重心”を決める大切なサインです。

譜読みの最初に
「この曲の調号は?」「どんな響きになる?」
と考えてみるだけで、
音楽のイメージが立ち上がり、演奏が一段と自然になります。

ぜひ次に楽譜を開くときは、
“調号”にも少し目を向けてみてください。

きっと音楽の感じ方が変わります。

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