ピアノで弱い音を出すことは、実は強い音よりずっと難しい——。
レッスンでも、演奏でも、この感覚に悩む人はとても多いです。
しかし、弱音はピアノの表現に欠かせない大切な要素。
そして何より、弱音には、人の心をぐっと引き寄せる力があるのです。
今回の記事では、4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
弱音の価値と、音を小さくしても響きが失われないための考え方をお伝えします。
■ 弱音でも「鍵盤の下まで弾く」ことが絶対に必要
弱い音を出そうとすると、
つい鍵盤の上のほうだけを触ってしまいがちです。
しかし、この弾き方では…
- 音が軽くなる
- 雑音が混ざる
- かすれた音になる
- 温度のない「ただ小さいだけの音」になる
という状態に陥りやすくなります。
弱音にする時ほど、鍵盤の底(底床)までしっかり触れて弾くことが必須です。
◎ 弱く弾く=力を抜く、ではない
力みを抜くことは大事ですが、
「指先のコントロール」まで抜けてしまってはいけません。
弱音であっても、
指先が鍵盤に“最後まで触れきる”ことで、はじめて芯のある響きが生まれます。
弱くても密度のある音。これが本当の弱音の魅力です。
■ 弱音には「人をひきつける力」がある
弱音には、不思議なエネルギーがあります。
- 思わず耳を近づけたくなる
- その空気の変化に気づいて緊張感がうまれる
- 音楽の方向性が変わる瞬間になる
- 感情の“ひそやかな動き”がよく伝わる
演奏会で、
ホールの空気が変わる瞬間は、多くの場合「弱音」です。
小さい音は、実は強い音よりも存在感がある。
それは、聴き手の意識が音の細部に集中するからです。
弱音のコントロールができると、演奏全体の説得力が一気に上がります。
■ 弱音が難しいのは「タッチと呼吸のコントロール」が必要だから
弱音は単に力を入れないのではなく、
“スピードを調整して鍵盤の底まで弾く”必要があります。
弱音が難しいと感じる理由はここにあります。
- 指の重さのコントロール
- 腕の重心の位置
- 鍵盤に触れるスピード
- フレーズの方向
- 呼吸とテンポの関係
これらすべてを繊細に扱わないと、
弱音は濁ってしまったり、かすれたりしてしまいます。
また、弱音は「緊張」とも関係が深く、指が固まるとスピード調整ができません。
弱音で美しい音を出せるのは、
心身ともにリラックスして音と向き合えている証拠です。
■ 芯のある弱音のための練習アイデア
今日からできる、簡単で効果的な練習を紹介します。
◎ ① 鍵盤の底までゆっくり落とす練習
小さな音のまま、鍵盤の底に“そっと”到達する意識。
どこまでなら弱い音が出せるのか試してみましょう。
◎ ② 3音だけで「小さくても方向のある音」を作る
弱音でもフレーズの方向性が必要です。
どこに向かっているのか明確にしましょう。
◎ ③ 片手でメロディを弱音で歌わせる
芯のある弱音が出せると、片手のメロディが急に美しくなる。
音がかすれていたりしないか、耳を使ってよく聴きましょう。
忘れられない音|筆者の経験談
あれは、2021年6月3日にサントリーホールで行われたバレンボイムのコンサート。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番、31番、32番と、
いわゆる「後期三大ソナタ」と呼ばれている作品たちを、生で聴きました。
私はそのときの演奏会でバレンボイムが出した弱音が、今でも忘れられません。
透き通る音でありながら、どこまでも届いていきそうな音。
あの広い空間でとてつもない存在感を放ち、聴いている人をひきつけて放さないような弱音でした。
それは音量だけではなく、空間や時間も操っていたからだとは思うのですが、
あんなに美しい弱音を聴いたのは、人生初めてでした。
私自身もそのような弱音を目指して日々試行錯誤していますが、まだ理想の音を思うように再現することはできていません。
それでも、いつか必ず出せるように、これからも探求を続けていきたいと思います。
■ まとめ|弱音が上達すると演奏が一段と洗練される
弱音を丁寧に扱うことは、
ピアノ演奏のレベルを一段上げる大きな鍵です。
- 弱音でも鍵盤の下まで弾く
- 芯のある音を意識する
- 小さい音ほど空気を変える力がある
- 弱音は繊細で難しいが、だからこそ価値がある
強い音より、弱い音のほうが“技術の質”があらわれます。
弱音を磨くことは、あなたの演奏をより魅力的にし、
聴く人の心を深く引きつける力になります。
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