♯139 ピアノを弾く時間がない社会人へ。「弾かなきゃ」を捨てて練習を習慣化する4つのコツ


「今日も練習できなかった……」

寝る前にそんな罪悪感を抱えながら、そっとピアノの蓋を閉める。社会人になってから、そんな夜を何度繰り返してきたでしょうか。

学生の頃のように、放課後に何時間も没頭できる環境はありません。仕事で神経をすり減らし、帰宅する頃には心身ともにクタクタ。

そこから「さあ、練習しよう!」と自分を律するのは、想像以上に過酷なことです。

しかし、多くの人が陥っている「時間がない」という悩みは、実は時間の量そのものよりも、いつ、どうやってピアノに向かうか」という戦略の問題であることも少なくありません。

今回は、根気に頼らずにピアノを習慣化するための、具体的なアプローチをご紹介します。

筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。

夜の練習が「身につかない」本当の理由

仕事終わりの夜、静かになった部屋でピアノに向かう。
一見、夜は理想的な時間に思えますが、実は社会人にとって最も効率が上がりにくい時間帯でもあります。

一日中働き続けた脳は、私たちが自覚している以上に疲弊しています。集中力が散漫になり、指の動きもどこか重い。

そんな状態で無理に練習をしても、新しいフレーズが頭に入りにくいだけでなく、思うように弾けない自分にストレスを感じてしまいがちです。

さらに、「疲れているのに頑張らなければならない」という思考は、ピアノを「楽しみ」から「義務」へと変えてしまいます。

プラスの効果を生みにくい時間帯に無理を重ねることは、結果としてピアノから心を遠ざける原因になりかねません。

思考を挟まず、朝の「まっさらな鍵盤」に触れる

夜の練習に限界を感じているなら、思い切って生活のリズムを少しだけ前にずらしてみるのが得策です。

夜は早めに休み、朝、いつもより15分だけ早く起きてみる。

朝の脳は、前日の疲れがリセットされた「まっさら」な状態です。

まずはこうした隙間時間の活用から始めましたが、この「朝の15分」が私の意識を変える大きなきっかけになりました。

この時間に「さあ練習するぞ」と気負う必要はありません。まずは、何も考えずにピアノの前に座り、鍵盤に指を触れてみてください。

時間がかかるのは、やり始めるまで

何事も、一番エネルギーを使うのは「やり始めるまで」の瞬間です。

重い腰を上げるまでが苦痛でも、いざ音を出してみると、不思議とスッと曲の世界に入り込めることがあります。

「嫌だな」と思っていた気持ちを忘れ、気がつけば夢中で指を動かしていた、という経験は誰しもあるはずです。

「練習しなきゃ」という言葉を一度横に置いて、ただ音を出す。

その心地よさを朝一番に味わうことが、結果として最も効率的な練習時間へとつながっていきます。

「逃げられない目標」で自分をコントロールする

どれだけ工夫しても、自分一人の意志ではどうしても甘えが出てしまう。

そんな時は、あえて自分を「追い込む」環境を作ってしまうのも一つの手です。

「時間ができたら練習しよう」というスタンスでは、忙しい日常に流されてしまいます。だからこそ、先に「逃げられない予定」を組み込んでしまうのです。

週に一度のレッスンに通う、あるいは数ヶ月先の発表会やコンクールに申し込んでしまう。人前で弾くという本番が設定されると、嫌でも練習せざるを得ない状況が生まれます。

この「適度な強制力」は、迷いを断ち切る強力なブースターになります。

性格にもよりますが、自分を律するのが難しいと感じる人ほど、外部の力を借りて「やらざるを得ない状況」を作ることで、結果的に充実したピアノライフを送れるようになるものです。

頑張った自分への「小さな報酬」を忘れない

最後に大切なのは、練習を「やりっぱなし」にしないことです。

どんなに短い時間でも、あるいはどんなに指が動かなかった日でも、ピアノに向かったという事実そのものを肯定してあげてください。

練習が終わったら、お気に入りのコーヒーを淹れる、読みたかった本を少しだけ読むなど、自分へのご褒美を用意しておきましょう。

ピアノを弾く=良いことがあるという回路を脳に作ることが、長期的なモチベーションを支えてくれます。

【筆者の経験談】「弾かなきゃ」を捨てて、ピアノを取り戻すまで

社会人になって4年。仕事には慣れてきましたが、それと引き換えにピアノの練習時間を見つけるのが難しくなりました。

時間に余裕があっても、体が疲れていて「弾く気が起きない」。
「弾かなきゃいけないのは分かっているけれど……」
そう自分を追い詰めるほど、ピアノから心が遠ざかっていくのを感じていました。

ある時、私は気づきました。この「弾かなきゃいけない」という義務感こそが、自分をピアノから遠ざけている一番の原因ではないか、と。

そこで、モチベーションを維持するために4つのルールを決めました。

  • 「練習しなければいけない」という観念を捨てる
  • 「今日はこの5小節だけ」と具体的に練習目標を立てる
  • 発表会など、逃げられない本番の予定を入れる
  • 練習を頑張ったら、他の好きなことを思う存分する

「やらなきゃ」と思えている時点で、あなたは十分に真面目で勤勉な人です。自分を責める必要はありません。

また、物理的な時間を作るためには「仕事の選び方」も重要です。

私は朝の練習習慣を続けるうちに、「もっと音楽と向き合う時間を人生の軸にしたい」という想いが強まり、思い切って仕事を減らす決断をしました。

お金は多少減りましたが、その分、音楽と向き合う豊かな時間を作ることができ、今の私はとても幸せです。

もちろん、全員に仕事を減らすことを勧めるわけではありません。でも、自分にとっての「幸せの優先順位」を一度整理してみることは、ピアノを長く続ける上でとても大切な作業でした。

もし、あなたも練習と仕事の両立に悩んでいるのなら、一度「頑張りすぎている自分」を緩めてあげてください。大切なのは、長く音楽を愛し続けることなのですから。

結びに:時間は「作る」ものではなく「見つける」もの

社会人にとって、ピアノの練習時間を確保するのは確かに大変なことです。
しかし、まとまった1時間は取れなくても、朝の15分など短い時間を積み重ねることは可能です。

「時間がない」と嘆く前に、まずは明日の朝、ちょっと早起きして何も考えずにピアノの蓋を開けてみませんか。

そこから響く一音一音が、忙しいあなたの日常を少しずつ変えていくはずです。

筆者プロフィール:

4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。


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