ピアノを弾く人にとって、大きな壁の一つが「暗譜(あんぷ)」です。
「練習では弾けているのに、本番になると頭が真っ白になる」
「指が勝手に動くのを待つだけで、次に何が来るか不安」といった悩みを抱えていませんか?
実は、暗譜が苦手な原因の多くは、脳が曲を「理解」する前に、指が「慣れて」しまっていることにあります。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が実践している「指の動きに頼らない暗譜の4つのステップ」と、
意外と見落とされがちな「メンタルと演奏の関係」について詳しく解説します。
この記事を読めば、より深く、揺るぎない記憶とともに演奏を楽しむヒントが見つかるはずです。
ステップ1:ピアノに座らない「脳内シミュレーション」

暗譜を確実にするために最も効果的なのは、あえてピアノの前に座らないことです。
なぜピアノを離れるのか?
ピアノを弾きながらだと、指の筋肉が「次にどこへ行くか」を覚えてしまい、脳がサボってしまいます。
これを「運動性記憶」と呼びますが、緊張した場面ではこの記憶は非常にもろいものです。
具体的な方法
椅子に座って、あるいは寝る前に、目をつぶって頭の中に鍵盤を思い浮かべてください。
そして、実際に弾く時のように指を動かしてみます。
- 「ここはド・ミ・ソの和音だな」
- 「ここで親指をくぐらせるな」
という具合に、1音1音リアルに再現します。
このとき、和音の構成音があいまいだったり、指番号に迷ったりする箇所が出てきたら、
そこがあなたの「暗譜の弱点」です。
曲が長い場合は少しずつで構いません。
私は時間がかかっても、1曲まるまる頭の中で完結させるようにしています。これができれば、暗譜の8割は完成したと言っても過言ではありません。
ステップ2:楽譜を「徹底的に」再確認する
脳内シミュレーションで「あれ?」と思った箇所は、すぐに楽譜で確認します。
「なんとなく」をゼロにする
「なんとなくこの辺を弾いている」という状態を放置しないことが大切です。
楽譜をよく見ると、
・自分が思っていた音と違っていたり
・内声(中間の音)の動きを見落としていたり
こういったことに気づきます。
視覚情報の強化
楽譜のページ構成や、記号の意味、音の流れを視覚的に焼き付けます。
音を「音」として覚えるだけでなく、「楽譜という地図」を頭に入れる作業です。
脳内でのイメージと実際の楽譜を一致させることで、記憶の解像度が格段に上がります。
ステップ3:メロディー以外の音を「声に出して歌う」
多くの人は主旋律(メロディー)は完璧に覚えています。
しかし、暗譜が落ちるのは決まって「左手」や「内声」です。
歌うことで「音」を自分のものにする
そこでおすすめなのが、メロディー以外の音を声に出して歌ってみることです。
- 左手のベースラインだけを歌ってみる
- 和音の下の音だけを追ってみる
「声に出して歌える」ということは、その音が脳内で明確に鳴っている証拠です。
単なる指のパターンではなく、音楽として多層的に曲を捉えることができるようになります。
ステップ4:パーツごとに取り出して弾く
曲を最初から最後まで通して弾くだけの練習は、実は暗譜には不向きです。
なぜなら、多くの場合「勢い」で弾けてしまっているからです。
どこからでもスタートできる強み
曲をいくつかの「パーツ(セクション)」に分け、どこからでも、どんなテンポでも弾き始められるように練習します。
- 32小節目から、いきなり弾けるか?
- 展開部の2小節目から、左手だけで弾けるか?
このように、勢いを遮断してパーツごとに取り出す練習は、脳に強い負荷をかけます。
しかし、この負荷こそが「本番で安定して弾ける力」を育みます。
勢いに頼らず、自分の意志で音を選んでいる感覚を養いましょう。
【番外編】暗譜を支えるのは「日々のメンタル」
どんなに念入りに準備をしても、本番でメンタルが崩壊してしまえば、暗譜も崩れてしまう可能性があります。
演奏と心は、私たちが思う以上に密接につながっています。
1. ポジティブな言葉とイメージを持つ
普段から「間違えたらどうしよう」という不安ではなく、「ここをこんな風に響かせたい」というポジティブなイメージを描く練習をしましょう。
日常的にポジティブな言葉を使っていると、脳はリラックスし、記憶を引き出しやすい状態になります。
2. 「今、ここ」に集中して生きる
未来の不安(「あそこの難所、弾けるかな?」)や過去のミス(「さっき間違えちゃった」)は一旦横に置いておきましょう。
今、鳴らしているその音だけに集中する習慣は、日々の生活から養われます。
3. 笑顔を心がける
意外かもしれませんが、笑顔でいることは脳の緊張を解き、パフォーマンスを向上させます。
練習中も、たとえ上手くいかなくても少し口角を上げてみてください。日常の小さな心の持ちようが、ステージ上でのあなたの支えになります。
筆者の経験談:本番で「安定して弾く」ための私の習慣
頭の中で音をイメージして暗譜を確認する――。
この習慣は、中学生の頃から自然と行っていました。
小学生の頃はまだ曲が短くシンプルだったため、練習量だけでなんとか覚えられていました。
しかし、曲が複雑になるにつれて、頭の中でのシミュレーションが不可欠になったのです。
また、高校時代からはメンタル面の強化にも取り組んできました。
多感な時期ゆえに、少しの不安が演奏を左右することを痛感したからです。
ポジティブな言葉を口にし、意識的に笑顔を作る。
こうした小さな積み重ねが、本番での「暗譜の不安」を解消してくれました。
普段の練習と同じように、本番でも「安定して弾ける」ことは私の強みだと思っています。
社会人になり、練習時間の確保が難しいという新たな壁にも直面していますが、
これからも試行錯誤を続けながら、より良い演奏を目指していきたいです。
まとめ:暗譜は「自分との対話」
暗譜が苦手な人へ贈る4つのステップをまとめます。
- ピアノを離れてイメージ練習をする(弱点を発見する)
- 楽譜を徹底的に再確認する(記憶を鮮明にする)
- メロディー以外の音を歌う(多層的に覚える)
- パーツごとに取り出して弾く(勢いに頼らない)
そして、日々のメンタルを整えること。
暗譜は単なる暗記作業ではありません。曲を深く理解し、自分の心と向き合うプロセスです。
日常の小さな習慣から変えていくことで、あなたの演奏はより自由で、自信に満ちたものになるはずです。
今日からまずは5分、ピアノの前に座らずに、
頭の中で最初の1ページをめくってみることから始めてみませんか?

