♯252 ピアノの本番で緊張したら笑え!面白くなくても私が舞台袖で「笑顔」を作る理由


舞台袖の重い空気の中、心臓が口から飛び出しそうなほど高鳴り、指先が冷たくなっていく……。
「普段通りに弾けるだろうか」「失敗したらどうしよう」と不安に押しつぶされそうになった経験は、ピアノを弾く誰しもが通る道ではないでしょうか。

そんな極限の緊張状態の中、私は本番直前の舞台袖で「あること」を必ず実行しています。

それは、「笑顔を作ること」です。

面白いことなんて何もありません。むしろ心の中は緊張と不安でいっぱいです。それでも私は、舞台袖で口角を上げ、ニカッと笑うようにしています。

なぜ、面白くもないのに本番前に笑うのか?
今回は、高校生の頃から私が実践し続け、今では「安定した演奏だね」と言っていただけるようになった理由である「笑顔の力」と、舞台に立つ本当の意味についてお話しします。

筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

本番前の舞台袖で、私は口元を隠して「ニカッ」と笑う

私が本番前の舞台袖で笑顔を作るようになったのは、高校生くらいのときからです。

当時の私は、本番で思うように自分の力を発揮できないことに深く悩んでいました。家やレッスン室では弾けているはずなのに、いざステージに上がるとガチガチに緊張してしまい、いつも通りの演奏が全くできないのです。

どうにかして本番のプレッシャーを克服したいともがいていた私は、ある1冊の本の存在を思い出しました。

それは、このブログでも度々紹介させていただいている、スポーツ心理学者・辻秀一さんが書かれた『演奏者勝利学』という本です。

辻秀一著「演奏者勝利学」の本をAmazonで見る→https://link.amazon/B0c5Iqjal

実はこの本、私が子どもの頃にピアノを最初に教えてくださった恩師がプレゼントしてくれたものでした。

いただいた当時はまだ幼く、パラパラと眺めた程度だったのですが、本番での弱さに本気で悩んだ高校生の私は、本棚からその本を引っ張り出し、むさぼるように読み返したのです。

そこに書かれていたのが、まさに「笑顔がもたらす力」でした。

もちろん、何も面白いことがない舞台袖でニヤニヤ笑っていたら、周りの人やスタッフの方から「どうしたんだろう?」と変に思われてしまいます。

ですから私は、自分の口元を手でさりげなく覆い隠して、その下で思いきり口角を上げ、「ニカッ」と笑顔を作ります。

これが、高校生の頃から現在に至るまでずっと続けている、私の本番前の絶対的なルーティンです。

笑顔を作ったくらいで?いいえ、私はそのエネルギーを信じている

「本番前に作り笑いをしたくらいで、本当に実力が発揮できるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、私は笑顔がもたらすポジティブなエネルギーを、心から信じています。

私は脳科学や心理学の専門家ではないので難しい理論の細部までは語れませんが、実際に笑顔でいる人とそうでない人とでは、本番のパフォーマンスに確かな差が出るという研究結果も数多く存在します。

口角を上げて笑顔の筋肉を動かすだけで、脳は「今は安心できる状態なんだ」「楽しい時間なんだ」と錯覚し、過度な緊張を和らげてくれるのです。

私自身、この『演奏者勝利学』の内容を信じて本番前に実践を重ねてきたからこそ、今でこそ周りの方から「本番でも安定した演奏をするね」と言っていただけるようになりました。

効果があるかどうか疑う前に、まずは自分の身体を使って試してみる。その小さな積み重ねが、私のピアニストとしての土台を作ってくれました。

舞台袖で今にも泣きそうだった、コンクールの子どもの記憶

以前、あるピアノコンクールの運営のお手伝いをしていたときのことです。今でも忘れられない、胸が締め付けられるような光景を目にしました。

出番を待つ舞台袖で、今にも泣き出しそうな、あまりにも悲痛な顔をした参加者の子どもがいたのです。

その子は張り詰めた表情のまま舞台へと歩み出て、とても神妙な顔つきのままピアノの前に座り、演奏を始めました。滑り出しはとても上手に弾けているように見えました。

しかし、曲の中盤に差し掛かったところで、緊張の糸が切れてしまったのか、途中で暗譜が何度も飛んでしまったのです。

なんとか最後まで弾き終えたものの、その子は舞台に上がる前と同じ、いやそれ以上に泣きそうな顔で(実際、もう涙が溢れていたように見えましたが)、うつむいて舞台袖に戻ってきました。

その子には大変申し訳ないのですが、私はその子が舞台に出ていくときの表情を見た瞬間から、「あぁ、これは途中で失敗してしまうかもしれない……」と直感していました。

そして、その後の演奏を聴いて、とても胸が痛みながらも納得してしまったのです。

顔が強張り、心が「恐怖」と「プレッシャー」でいっぱいになっているとき、指先がのびのびと歌ってくれるはずがありません。

表情は、その人の心そのものを映し出す鏡なのです。

私たちは何のために演奏するのか?評価やミスの恐怖を手放そう

コンクールのあの子の姿を見て、私は改めて自分自身に強く問いかけました。

「私たちは、一体何のためにピアノを演奏するのだろう?」

誰かに良い評価をもらうためでしょうか?
1音も間違えずに、ミスのない完璧な演奏をすることだけが正義なのでしょうか?

決して、そんなことのために私たちはピアノを弾いているわけではありません。

  • 客席には、自分の音に耳を傾けてくれる聴き手がいること
  • 何百年も受け継がれてきた、素晴らしい大作曲家の作品があること
  • そして、それを素晴らしい響きを持つ素敵なホールや会場で奏でられること

ピアノを人前で弾く上で、この巡り合わせの喜びに勝る意味が、一体どこにあるでしょうか。

評価されることばかりを気にしたり、「間違えたらどうしよう」という恐怖にとらわれてこの本質を忘れてしまった演奏者は、舞台の上でのびのびと音楽を届けることなんてできません。

今、自分がそのステージに立てている環境に、心から感謝すること。
「この素敵な場所で、この大好きな曲をみんなに聴いてもらえるんだ!」という原点の喜びを思い出すこと。

その気持ちが、強張った表情を自然と和らげてくれるはずです。

緊張するのは当たり前。でも、緊張に飲み込まれてはいけない

勘違いしないでほしいのは、「緊張すること自体は、決して悪いことではない」ということです。

プロのピアニストであっても、何十年ステージに立っている大御所の先生であっても、舞台の前はみんな等しく緊張しています。

真剣に音楽と向き合っているからこそ、心拍数が上がり、身体が本気モードになるのは人間の自然な防衛本能です。

だから、「緊張してはいけない」「落ち着かなきゃ」と自分を責める必要はありません。

大切なのは、緊張している自分を認めつつも、緊張に飲み込まれないことです。

飲み込まれそうになったら、そっと口元を手で隠して、無理やりにでも口角を「ニカッ」と上げてみてください。

「大丈夫、私はこの舞台を楽しみに来たんだ」と、自分の脳と身体に笑顔でサインを送ってあげるのです。

まとめ:舞台に立てる喜びに感謝して、笑顔で扉を開けよう

緊張で目の前が真っ暗になりそうになったときこそ、思い出してください。

舞台袖は、恐怖に怯える場所ではありません。
あなたが今日まで積み重ねてきた努力を、大好きな音楽を、待ってくれている人たちに届けにいく「最高のスタート地点」です。

面白くなくてもいい。不安で足が震えていてもいい。
まずは口元を隠して、ニカッと大きく笑ってみてください。

その小さな笑顔が、あなたの心にポジティブな光を灯し、身体のこわばりを解き放ってくれます。

緊張を味方につけて、舞台に立てる奇跡に感謝しながら、笑顔でステージへの重い扉を開けていきましょう!

演奏会情報・無料個別相談はLINE公式アカウントから

演奏会への出演情報のご案内、ピアノや練習に関する個別のご相談はLINE公式アカウントでお知らせ・やり取りします。

ご相談は1対1のやり取りとなり、他の方に内容がみられることはありません。
配信は必要なときのみ行っていますので、お気軽にご登録ください。

筆者プロフィール:

4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA