
「音大に入るような人は、最初から苦労せずスイスイ弾けたんでしょう?」
そんなふうに聞かれることがよくありますが、私のピアノ人生は、むしろ「挫折」と「涙」の連続でした。
音楽高校から東京音楽大学のピアノ演奏家コースへ。この経歴の裏側には、どれだけ練習しても報われない焦りや、大学のトイレで一人泣き崩れた日々がありました。
今回は、私が経験した「成長痛」とも言える過酷な練習の日々と、そこから学んだ本当の意味での「上達」について、当時のリアルな体験をお話しします。
筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。
【高校・浪人時代】がむしゃらに練習。それでも「全然ダメ」と言われた日々

音楽科のある高校に通っていた頃、私はとにかく「たくさん練習しなければならない」という強迫観念に突き動かされていました。
- 平日の練習時間: 朝練1時間+放課後4時間=計5時間
- 浪人時代: 朝から晩まで、時間はいくらあっても足りない感覚
しかし、その練習は決して効率的なものではありませんでした。常に睡眠不足で、授業中は猛烈な眠気に襲われ、練習中も耐えられなくなると練習室の床に10分〜20分ほど横になって眠り、また起きて弾き始める……。
そんな、がむしゃらで泥臭い毎日でした。
それほど必死に練習しても、レッスンに行けば先生からは「全然ダメ」と突き放される。
自分の練習の方向性が合っているのかもわからず、ただ暗闇の中を走っているような不安な日々。
なんとかギリギリのところで、東京音楽大学ピアノ演奏家コースへの合格を手にしました。
東京音大入学後の絶望:トイレで泣いた「演奏家コース」の壁

合格はゴールではなく、さらなる試練の始まりでした。
大学では二人の先生に師事する「ダブルレッスン」が始まり、曲の難易度もスピード感も格段に上がります。
周りのレベルの高さに圧倒され、自分の実力のなさを突きつけられる毎日。
「自分はなんて弾けないんだろう。今までやってきたことは何だったのか。」
そう思っては、大学のトイレにこもって一人で泣いてばかりいました。
高校時代にあれほど時間をかけて練習してきた自負があったからこそ、全く通用しない今の自分を受け入れるのが辛くてたまらなかったのです。
先生からの「ドクターストップ」:ソロ演奏を禁じられた苦しみ

さらに追い打ちをかけたのが、主科の先生からの厳しい言葉でした。
「今のあなたのピアノは基礎が全くなっていない。今は体の使い方を根本から矯正している最中。
これは、骨折を治している最中に無理やり大会に出るようなものだ。だから、今はソロの本番は一切やってはいけない。」
事実上のドクターストップでした。
高校の同期が企画した演奏会でも、私だけはソロを弾くことが許されず、アンサンブルのみ。ソリストとしてステージに立てない、自分の演奏を全否定されたような悔しさは、今でも忘れられません。
「成長痛」を乗り越えて掴んだ、本当の成長

しかし、その屈辱が私を突き動かしました。
「本番に出られないなら、今は徹底的に基礎を叩き直してやる」
そう決意し、がむしゃらに弾くだけの時期を脱し、音色一つ、指の動き一つを再構築していく日々。
自分の体の使い方と向き合い、音楽をどう捉えるかを深く考え抜きました。
大学1年生の終わり、学期末の試験では、学年で3番目に良い成績を残すことができました。
あの時の苦しみは、今思えば「成長痛」だったのだと感じます。
高く跳ぶためには、一度深く膝を曲げなければならない。
あの挫折があったからこそ、今の私の演奏と指導があります。
まとめ:演奏家として、指導者として、今伝えたいこと

現在、私は指導者として生徒たちに向き合い、同時に演奏家としてステージに立ち続けています。
練習が思うように進まずに悩んでいる生徒さんの姿を見ると、かつて大学のトイレで泣いていた自分を思い出します。でも、今の私なら自信を持って言えます。
「わけもわからずがむしゃらに取り組んだ時期も、挫折して泣いた時間も、決して無駄にはならない」と。
演奏家としての今の私の音は、あの時の「痛み」があったからこそ、深みや説得力を持てるようになったのだと確信しています。
完璧にスイスイと進んできた道では、決して手に入らなかった響きがそこにはあります。
成長には、必ず痛みが伴います。それは、新しい自分に生まれ変わるための「成長痛」です。
指導者としてその痛みに寄り添い、演奏家としてその痛みを音楽に変えていく。それが私の使命だと思っています。
もし今、あなたがピアノの練習で壁にぶつかっているなら、それはあなたが大きく変わろうとしている証拠です。その先に待っている素晴らしい景色を、一緒に見に行きましょう。
★演奏会のお知らせ★
2026年10月12日(月祝)彩の国さいたま芸術劇場小ホールにて、チェロ奏者の入江晴美さんとのコンサート、「橋本智菜美ピアノリサイタルシリーズⅡ Duo Recital ーブラームスに寄せてー」を開催いたします。18:00開演(17:30開場)。
チケットお申し込みはこちらまで→chinalustig.bbb16@gmail.com

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筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

