♯231 ピアノコンクールで「ミスなし」でも予選落ちする理由。審査員が評価する表現力の正体とは?


「ミスタッチもなく、最後まで完璧に弾けたはずなのに、なぜか予選を通らなかった……」

ピアノコンクールに挑戦しているお子さんを持つ親御さんから、このような切実なご相談をいただくことがよくあります。
最近はテレビ番組の影響もあり、「ピアノが上手い=一音も間違えないこと」というイメージが定着しているのかもしれません。

以前の記事「♯141 ピアノコンクールでミスタッチはどこまで採点に響く?審査員が重視する「ミスの先」にあるもの」では、ミスがどのように点数に影響するかを解説しましたが、実はミスがないこと」と「合格すること」はイコールではありません

今回は、指導者として、そして現役の演奏家としての視点から、ミスタッチの有無よりも重要な「審査員の心に届く演奏」の条件について深掘りします。

筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

「正確なだけの演奏」が評価されない理由

コンクールの予選において、ミスタッチが1つもなくても落選してしまうことは、実は珍しいことではありません。

なぜなら、審査員は「間違い探し」をしているのではないからです。

もちろん、基礎的なテクニックは前提として必要です。しかし、ミスを恐れるあまり、指先をコントロールすることだけに意識が向いてしまうと、演奏は途端に「あじけないもの」になってしまいます。

  • 機械的なリズム: メトロノーム通りではあるが、音楽的な「呼吸」がない。
  • 平坦な音色: フォルテやピアノの指示は守っているが、その音色の変化に意味がない。
  • 語りかけの欠如: 音は並んでいるが、聴き手に訴えかけるメッセージがない。

こうした演奏は、例えるなら「一字一句間違えずに棒読みしたスピーチ」のようなものです。
言葉(音)は正しくても、話し手の感情が乗っていなければ、聴き手の心には何も残りません。

ミスタッチばかりに気を取られて音楽の本質を見失ってしまうのは、まさに本末転倒なのです。

審査員が見ているのは「この曲をどう感じているか」

審査員席に座る先生方が最も注目しているのは、この子がどのようにこの音楽を理解し、表現しようとしているか」という点です。

具体的には、以下のようなポイントが評価を左右します。

  • 音楽への没入感: その子がその曲の世界に入り込み、心から共感して弾いているか。
  • 音に対するこだわり: 「ただ出す音」ではなく、一音一音に意志が宿っているか。
  • 伝えようとする力: 自分の内側だけで完結せず、ホールの隅々にまで音楽を届けようとしているか。

たとえ小さなミスタッチがあったとしても、それを補って余りある「音楽的な魅力」や「説得力」があれば、審査員の心は動かされます。審査員が見ているのは、まさにそこなのです。

自分がお客さんになって聴いているところを想像してみてください。

ミスをしないようにとビクビクしながら弾いている演奏より、楽しそうに、あるいは切なそうに音楽を表現している演奏の方が「また聴きたい」と思いませんか?

その感覚は、コンクールであっても変わることはありません。

演奏家としての実感:ミスを恐れると音楽は逃げていく

私自身、現役で演奏活動を続けていますが、ステージに立つ人間として痛感していることがあります。それは、「ミスタッチしたらどうしよう」という思考が頭をかすめた瞬間、音楽が死んでしまうということです。

過去に私が出場したコンクールでも、ミスの不安に支配された時は、結果が伴いませんでした。ミスタッチこそしませんでしたが、録音を聴き返すと、そこには守りに入った「つまらない演奏」をする自分がいました

逆に、良い結果をいただけた時は、不思議とミスのことは考えていません。ただ「この曲の美しさを伝えたい」「この響きを共有したい」という没入感だけがありました。

コンクールだからこそ、余計なことは考えずに音楽に入り込むことが大切です。
没入しすぎには注意が必要ですが、音楽に心から共感し、表現しようとする姿勢こそが、聴き手に伝わる演奏を生むのです。

「背伸び」を捨てて、ありのままの音楽を

コンクールの本番で、練習以上の力を出そうと「背伸び」をする必要はありません

残念ながら、練習でできていないことが本番で突然できるようになるという奇跡は、めったに起こりません。むしろ、練習通りの演奏ができることすら難しいのが本番の怖さです。

だからこそ、大切なのは「ありのまま」でいること

「上手く見せよう」「完璧に弾こう」という余計なプライドや恐怖を捨て、今自分が持っている精一杯の音楽を、誠実に鍵盤に託す。

なかなか難しいことですが、その「音楽に集中する」というシンプルな姿勢が、結果としてミスタッチを減らし、審査員の評価に繋がります

まとめ:コンクールを「下手になる場」にしないために

「ミスをしないこと」を最大の目標にして練習を重ねると、ピアノの演奏はどんどん縮こまっていきます。それでは、上達するために受けているコンクールなのに、かえって音楽性を損なう原因になりかねません

親御さんにぜひ意識していただきたいのは、お子さんが音楽を「表現する喜び」を忘れないようなサポートです。

「ミスしないように弾きなさい」ではなく、「どんなふうに聴こえたら素敵かな?」「この曲のここが好き!」と、音楽の楽しさに目を向けさせてあげてください

音楽に心から共感し、理解し、表現する。
その意識の変化が、お子さんの演奏を劇的に変え、コンクールという場を本当の意味で成長の機会に変えてくれるはずです。


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「そうは言っても、ミスタッチが具体的に何点くらい減点されるのか気になる」という方は、こちらの記事も参考にしてみてください。採点の仕組みを客観的に解説しています。
♯141 ピアノコンクールでミスタッチはどこまで採点に響く?審査員が重視する「ミスの先」にあるもの

★演奏会のお知らせ★

2026年10月12日(月祝)彩の国さいたま芸術劇場小ホールにて、チェロ奏者の入江晴美さんとのコンサート、「橋本智菜美ピアノリサイタルシリーズⅡ Duo Recital ーブラームスに寄せてー」を開催いたします。18:00開演(17:30開場)。

チケットお申し込みはこちらまで→chinalustig.bbb16@gmail.com

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筆者プロフィール:

4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。


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