SNSやYouTubeで、流れてきた流行りの曲をサラッとピアノで再現する「耳コピ」。
楽譜をいちいち読まずに、聴いただけで音楽にしてしまう姿は、とてもスマートでカッコよく見えますよね。
前回の記事では、音楽の基礎体力を養う「ソルフェージュ」についてお話ししましたが、今回はその続きとして、あえて「耳コピの危険性」について切り込んでみたいと思います。
「耳コピができるから楽譜は読めなくていい」
「感覚だけで弾けるのが才能だ」
もしそう思っているなら、少しだけ立ち止まってこの記事を読んでみてください。
耳コピの裏側に隠された弊害と、第一線で活躍する人がなぜ「楽譜」を大切にするのか。その真実をお伝えします。
筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。
「耳コピ」は魔法ではない。SNSの裏側にある真実

そもそも耳コピとは、聴こえてきた音楽を耳で覚えて、それを楽器で再現することです。
YouTubeやTikTokを開けば、「耳コピして弾いてみた!」という動画が溢れています。
実は、私自身もそのような演奏動画を載せることがあります。
耳コピという言葉は、非常にキャッチーで目を引きます。パッと聴いてパッと弾ける。それはまるで魔法のような才能に見えるため、多くの人が憧れるのも無理はありません。
しかし、ここで知っておいてほしいことがあります。
「耳コピ動画を上げている人たちの多くは、実は楽譜もしっかり読める」ということです。
もちろん、中には全く楽譜が読めない天才肌の人もいるでしょう。
しかし、長く音楽を続けている人やプロとして活動している人の多くは、耳コピという「見せ方」をしているだけであって、その土台には強固な「楽譜を読む力」が存在しています。
私は「きっちり楽譜を読むタイプ」の耳コピ派です

私自身の話をすると、耳コピ動画を撮ったり、聴こえてきたものをピアノで弾いてみることはしますが、楽譜もきちんと読むことができます。
その背景には、幼少期からのソルフェージュや古典的なピアノ教育という「訓練」を積み重てきた経験があります。
- 複雑な音を瞬時に読む
- 細かなリズムの割り振りを理解する
- それをきちんと指で再現する
こうした訓練があったからこそ、聴いた音を迷いなく鍵盤に落とし込むことができるのです。
私にとって耳コピは「楽譜を読む力」の延長線上にあります。
耳コピができる人はカッコよく見えます。でも、その「カッコよさ」だけを切り取って真似しようとすると、ピアノ学習において非常に恐ろしい事態を招くことになります。
耳コピだけに頼った結果、待ち受ける「楽譜拒否反応」

耳コピの最大の弊害、それは「楽譜が読めなくなる(読もうとしなくなる)」ことです。
私が教えている高校や音楽教室でも、耳コピだけでピアノを弾いてきた子たちに出会うことがあります。
彼らは一見、器用に弾きこなします。しかし、一歩踏み込んだ指導をしようとすると、大きな壁にぶつかります。
その壁とは、以下のようなものです。
① 休符の長さがわからない
耳コピ派の子にとって、音楽は「鳴っている音」の連続です。「鳴っていない時間」、つまり休符の正確な長さをカウントするのが非常に苦手です。
なんとなくの感覚で次の音に入ってしまうため、アンサンブル(合奏)をするとズレが生じます。
② 「なんとなく」で弾いてしまうタチの悪さ
楽譜を見ていても、細かいリズムや付点、タイなどの記号を無視して、自分の聴いたイメージ(記憶)を優先してしまいます。
これが「タチが悪い」のは、 本人は「弾けているつもり」になってしまう点です。
正確な音の長さやリズムが崩れていても、本人の耳には自分の理想の音が流れているため、間違いに気づくことができないことも。
③ 複雑なクラシックで挫折する
流行りのポップスなら「なんとなく」で通じるかもしれません。しかし、クラシック音楽のように、作曲家が残した一音一音を忠実に再現しなければならない世界では、耳コピの限界がすぐにやってきます。
複雑な対位法や、聴いただけでは判別できない緻密な和音構成。
それらを前にしたとき、楽譜を読む力がない子たちは、あまりの苦労にピアノそのものを嫌いになってしまうことさえあります。
「楽譜も読めて、耳コピもできる」が最強の理由

私は、耳コピを否定したいわけではありません。むしろ、耳が良いことは素晴らしい才能です。
ですが、「楽譜を読むこと」と「耳コピができること」は、車の両輪のようなものだと考えています。
楽譜が読めるようになると、あなたの音楽の世界は劇的に広がります。
- 音源がない未知の曲でも、自分の力で形にできる
- 曲の細かいところまで再現できる
- 説得力のある演奏ができる
- 耳コピしなくとも、楽譜さえあればクラシックもポップスも弾けるようになる
楽譜という「設計図」を読み解く力があり、さらにそれを「耳」で補完できる。
この「両取り」こそが、ピアノを自由に、そして一生楽しむための最強の武器になります。
憧れだけを切り取らず、基礎という「翼」を手に入れよう

SNSで見る華やかな演奏に憧れるのは素晴らしいことです。それが練習のモチベーションになるなら、どんどん憧れてください。
しかし、その「憧れの断片」だけを手に入れようとして、ソルフェージュや譜読みといった基礎をおろそかにしないでほしいのです。
基礎は、あなたを縛るものではありません。むしろ、あなたが好きな音楽をより自由に、より深く表現するための「翼」になります。
楽譜が読めるようになれば、耳コピの精度も上がります。
耳コピができるようになれば、楽譜の理解も早まります。
もし今、あなたが「楽譜を読むのが面倒だな」と感じているなら、ぜひ前回の記事で紹介した ソルフェージュの視点を取り入れてみてください。
一歩ずつ、楽譜と仲良くなることで、あなたのピアノの可能性は無限に広がっていくはずです。
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筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

