♯210 ピアニストは演奏中に何を考えている?現役奏者が明かす「無」の境地と伝えたい想い


ピアニストって、あんなに長い曲を弾いている間、一体何を考えているの?

ピアノを習っている方や、演奏会に足を運んでくださる方から、よくこんな質問をいただきます。

クラシック音楽の世界では、1曲が10分、20分、時には40分を超える大曲も珍しくありません。その長い演奏時間の中、私たちの頭の中ではどのような思考が巡っているのでしょうか。

今回は、演奏活動を行っている私自身の視点から、ピアニストが演奏中に考えていることの真実をお話しします。

筆者プロフィール:
4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。

ピアニストが演奏中に考えていることは、実は「無」?

結論からお伝えすると、演奏がうまくいっているときほど、ピアニストの頭の中は無」であることが多いです。

ここでいう「無」とは、何も考えていないということではありません。
「余計な雑念が一切排除され、音楽そのものに没入している状態」を指します。

実は、以下のようなことは、演奏中にはほとんど意識していません。

  • 「次の難所、間違えたらどうしよう」
  • 「お客さんに下手だと思われていないかな」
  • 「今日の晩御飯、何を食べようかな」

これらはすべて、今目の前で鳴っている音とは関係のない「ノイズ」です。
極端な話、自分の指がどう動いているかという意識すら、深い集中の中では消えていくことがあります。

「考えている」というよりも、五感を研ぎ澄ませて「感じている」という表現の方が、しっくりくるかもしれません。

演奏中に「考えている」のではなく「感じている」3つのこと

「無」の状態の中で、ピアニストの意識はどこに向いているのでしょうか。それは主に空間響きへの集中です。

①  音で空間を支配する「響き」のコントロール

ピアニストが最も集中しているのは、「今出した音が、この空間でどう響いているか」を把握することです。

ステージに上がるまでに、練習で表現の方向性や弾き方はある程度決めておきます。

しかし、本番は別物です。その日のホールの湿度、ピアノの状態、そして何より自分のコンディションによって、音の響きは刻一刻と変化します。

「今の音は、ホールの隅々まで心地よく届いているか?」
「この空間では、どのくらいの強さで弾くのが一番美しく響くのか?」

このように、ホールの広さを認識し、その空間を自分の音でどう満たすかを常にイメージしています。

自分の出した音が壁に跳ね返り、空間に溶け込んでいく様子をリアルタイムで聴き、打鍵の強さやスピードを微調整し続ける。

いわば、音を使って空間を支配しているような感覚です。

② お客さんと共有する「空気感」を楽しむ

演奏は、ピアニスト一人で完結するものではありません。客席の皆さんが作る「静寂」や「期待感」も、音楽の大切な要素です。

同じ曲を弾いても、会場によって空気感は全く異なります。

その瞬間にしか生まれない「一期一会」の空気を感じ取り、それに反応して音色を変えていく。
これこそがライブ演奏の醍醐味であり、ピアニストが最も集中しているポイントです。

ミスをしたとき、頭の中はどう切り替わる?

もちろん、完璧な演奏ばかりではありません。「やってしまった(音が飛んでしまった)!」という瞬間は、プロであっても起こり得ます

そんなとき、ピアニストの頭の中はどうなっているのでしょうか。

音楽は時間は残酷なほど、止まることなく流れていきます。一つのミスを引きずっていては、その後のフレーズまで台無しになってしまいます。

そのため、ミスをした瞬間に必要なのは即座の意識の切り替えです。

「終わったことは仕方ない。次の音をどう美しく出すか」

この切り替えの速さも、ピアニストに求められる大切な技術の一つ
過去(ミス)ではなく、常に「今」と「未来(次の音)」だけを見つめています。

弾く前にたった一つだけ「考えていること」

ここまで「演奏中は無である」とお話ししましたが、実は演奏を始める直前、私が必ず心に強く念じていることがあります。

それは、この曲を通して、聴いてくださっているお客さんに何を伝えたいかということです。

テクニックが完璧であることよりも、指が速く動くことよりも、この「伝えたい想い」こそがピアノを弾く上で一番大切だと私は信じています。

  • この曲の持つ悲しみを共有したい
  • 聴いた後に、心が晴れやかになってほしい
  • 作曲家が楽譜に込めた情熱を届けたい

こうした強い想いは、必ず音に乗ってお客さんに伝わります。そして、伝わるように演奏しなければならない、という責任感も同時に持っています。

まとめ:音楽という長い旅を共にするために

40分という長い演奏時間は、ピアニストにとっても、聴いてくださる皆さんにとっても、一つの「旅」のようなものです。

私たちはステージの上で、余計な思考を捨て、その瞬間の音、空間、そして皆さんの存在を全身で感じています。

次にピアノの演奏を聴く機会があれば、ぜひ「今、このピアニストはどんな響きを感じているのかな?」と想像してみてください。

きっと、今まで以上に音楽が身近に、そして深く感じられるはずです。

私自身も、次回のステージでは「今しか出せない最高の音」を皆さんに届けられるよう、心を込めて鍵盤に向かいたいと思います。

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筆者プロフィール:

4歳よりピアノを始め、埼玉県立大宮光陵高校音楽科、東京音大ピアノ演奏家コース、同大学院修士課程を修了。コンクール受賞歴多数。奨学金授与、短期留学を経験し、現在は演奏活動と並行し累積50名以上の指導に携わる。現役奏者の視点から、ピアノ上達のヒントや本番に強いメンタル術を発信中。


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