
「もうピアノを辞めてしまいたい」
「自分には才能がないのではないか」
ピアノを長く続けていれば、一度や二度はこうした暗い感情に飲み込まれそうになる時があるはずです。
私は4歳からピアノを始め、音楽高校、音大、大学院を経て、現在は演奏活動をしながらピアノを教えています。コンクールでの受賞歴や留学経験もあり、周囲からは「順風満帆なピアノ人生」とみられることも少なくありません。
しかし、実際は違います。これまでの道のりの中で、私は二度、本気でピアノを辞めようと立ち止まりました。
今回は、私がその絶望をどう乗り越えてきたのか、そして今「練習が辛い」と感じているあなたに伝えたいことを綴ります。
筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。
最初の挫折:第一志望不合格と「才能」への疑問

一度目の大きな転機は、大学受験でした。
音楽の道で生きていくと決め、必死に練習を重ねてきましたが、結果は第一志望の大学に不合格。
その時、私を支配したのは
「才能のない、たいして上手でもない私が、このままピアノを続ける意味なんてあるのだろうか」
という強烈な自己否定でした。
それまでの努力がすべて否定されたような気がして、本気でピアノを辞めることを考えました。しかし、心に蓋をしようとすればするほど、溢れ出してきたのは「やっぱりピアノが好きだ」という純粋な想いでした。
自分が演奏して、誰かに拍手をもらえる。
その瞬間の喜びが、どうしても忘れられなかったのです。私は母の前で、泣きながら「やっぱりピアノを弾きたい」と訴えました。
私が弱気になる度に、母からはこう発破をかけられてきました。
「そんなに弱気になるくらいなら、もう辞めたら?」
突き放すような言葉でしたが、その瞬間、私の中に「ここで辞めてたまるものか」という強い火が灯りました。
悔しさをバネにする強さを、母は引き出してくれたのだと思います。
二度目の壁:社会人としての限界と「覚悟」

二度目の悩みは、大学院を修了し、社会人として働きながらレッスンを受けていた時に訪れました。
仕事と練習の両立だけでも大変な中、先生から要求される芸術的なレベルはさらに高くなっていきました。自分の技術が追いつかず、「私にはもう無理なんじゃないか」と、自分の限界を感じてしまったのです。
その時、支えになったのは高校時代の恩師の言葉でした。
「限界は、自分で決めるもの」
限界だと思っているのは、他人ではなく自分自身。自分でシャッターを下ろしてしまえば、そこで成長は止まってしまいます。
「まだまだかもしれないけれど、必死に食らいついていこう」と、私は再び鍵盤に向き合う決意をしました。
思えば、大学2年生の実技試験で思うような結果が出なかった時もそうでした。
なぜ結果が出ないのかを突き詰めた時、最後に行き着いたのは「覚悟が足りなかった」という答えでした。
「なんとなく頑張る」のではなく、「何が何でもこの壁を越える」という本気の覚悟。
壁にぶつかるたびに、私は自分の覚悟を再確認し、少しずつ強くしてもらったのだと感じています。
コンクールでの失敗は「辞める理由」にはならなかった

意外かもしれませんが、私はコンクールで失敗した時に「辞めたい」と思ったことは一度もありません。
もちろん、結果が出なければ悔しいです。でも、その悔しさは「次はもっと良い演奏をしたい」「もっと練習して見返したい」という、次へのエネルギーに変わりました。
私にとって「辞めようか」と悩む時間は、決して無駄な時間ではありませんでした。
悩み、苦しみ、それでも「やっぱり弾きたい」と再確認するプロセスを経て、ピアノへの気持ちはより強固なものになっていったからです。
壁を乗り越えるたびに、技術だけでなく、演奏者としての信念も増していった。今では、あの苦しい時期こそが私には必要な過程だったと確信しています。
今、ピアノが辛いと感じているあなたへ

ピアノを辞めようかと悩んでいる人は、きっとたくさんいるでしょう。
もし今、あなたが暗闇の中にいるのなら、これだけは伝えたいのです。
「辞めたい」と真剣に悩むのは、あなたがそれまでピアノに対して「真剣に」向き合ってきた証拠です。
どうでもいいことなら、悩みもしません。苦しいのは、あなたがもっと高みへ行きたいと願っているからです。
もし悩んだ結果、一度ピアノから離れることになったとしても、あるいはもう一度踏ん張って続けることになったとしても、真剣に悩んで出した答えなら、それはあなたにとっての「正解」です。
ただ、もし心のどこかに「やっぱり拍手をもらえると嬉しい」「あの曲を弾けるようになりたい」という小さな火が残っているのなら、どうか自分の限界を自分で決めないでください。
その壁を乗り越えた先には、今まで見たことのない、より深く美しい音楽の世界が待っています。
今の苦しみは、あなたがより強くなるための、大切なステップなのです。
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筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。

