♯140 ピアノの指使い、誰が決めている?楽譜通りに弾くべき理由と自分に合わせる勇気


ピアノを練習していて、「なぜこの指番号で弾かなければならないのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。
楽譜に細かく書き込まれた数字は、時に私たちの自由を縛るルールのように感じられるかもしれません。

しかし、指使いは単なる「決まり事」ではなく、音楽をより美しく、そしてスムーズに奏でるための「戦略」です。

指使い一つで、音色は劇的に変わり、難所だったフレーズが驚くほど楽に弾けるようになることもあります。

今回は、意外と知られていない指使いの正体と、自分に最適な指番号を見つけるための考え方について深掘りしていきます。

筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。

その指番号、実は「作曲家」が書いたものではない?

まず知っておきたいのは、楽譜に記されている指番号の多くは、作曲家自身ではなく、後世の「編集者」や「校訂者」によって書き加えられたものだということです。(作曲家が書いたものもあります。)

現在私たちが目にしている数字は、その出版社が依頼したピアニストや教育者が「このように弾くのが効率的だろう」と判断した一つの提案に過ぎません。

そのため、同じ曲であっても出版社が違えば、指定されている指番号が全く異なることも珍しくありません。

つまり、楽譜の指使いは「絶対的な正解」ではなく、あくまで先人が導き出した最適解の一つなのです。

指使いに隠された「物理的な必然性」

とはいえ、指使いにはある程度の共通した法則が存在します。それは、人間の手の構造に基づいた物理的な合理性です。

〈例〉ドからソまで順番に音が上がっていくフレーズを想像してみてください。皆さんならどの指使いで弾きますか?

特別な意図がない限り、多くの人は「1・2・3・4・5」の指を使うはずです。
ここでわざわざ「1・2・1・2・3」と指をくぐらせて弾く人はいないでしょう。

なぜなら、手の自然な形を崩さずに弾く方が、無駄な力が抜け、スムーズに音がつながるからです。

一歩先を見据えて決められている

指使いは常に「一歩先」を見据えて決められます
どこまでも上っていくような旋律を弾く際、どこかのタイミングで親指をくぐらせなければ、物理的に上の音まで届きません。

楽譜に書かれた番号には、こうした「次の音へ無理なく移動するための布石」が必ず打たれています。適当につけられた番号など、一つとして存在しないのです。

表現したい「音色」が指番号を決める

指使いを決めるもう一つの重要な要素は、どのような音を出したいかという音楽的解釈です。

人間の指は、それぞれ太さも筋力も異なります。いくつか例を出します。

〈例1〉芯のあるしっかりした音を出したい場面に4の指を使うか?
薬指(4番)は構造的に独立しにくく、強い力をかけるのが難しい指です。そのため、あえて4番を避け、コントロールしやすい他の指を選択することがあります。

〈例2〉鋭く突き刺すようなアクセントが欲しいときはどの指を使う?
力強い親指(1番)を効果的に使うこともあります。

また、繊細なピアニッシモを表現するために、あえて動きにくい指を使って音量を抑えるという高度なテクニックも存在します。

指番号を選ぶということは、そのまま「どのような音を奏でたいか」という表現の選択に直結しているのです。

【筆者の経験談】指番号一つで「音のうねり」が変わった瞬間

私自身、これまで数多くの曲を弾いてきた経験から、「この音型ならこの指使いがベストだろう」というパターンが自分の中に感覚的に染み付いています。しかし、その慣れが時に「慢心」を生んでしまうこともあるのだと、ある曲を通じて痛感しました。

それは、ラフマニノフの『前奏曲集 作品23 第2番』に挑戦した時のことです。この曲の冒頭には、左手だけで激しく、かつ重厚に動くパッセージが登場します。

私は当初、自分の手に馴染む「いつもの感覚」で指番号を選んでいました。

〈ラフマニノフ/前奏曲集 作品23より第2番〉先生からの指摘前の指使い

ところが、レッスンで先生から全く別の指使いを提案されたのです。
最初は「えっ、その指で弾くの?」と違和感がありましたが、実際に試してみると驚くべき変化が起きました。

単に物理的に弾きやすくなっただけでなく、明らかに「音楽」が変わったのです。

〈ラフマニノフ/前奏曲集 作品23より第2番〉先生からの指摘後の指使い

新しい指番号に変えたことで、この曲に不可欠な「音の大きなうねり」が自然と指先から引き出されるようになりました。

指の運びが変わることで、アクセントの位置やフレーズの重みが最適化され、理想とする響きに一歩近づけたのです。

指番号は、単に「ミスタッチを防ぐための手段」ではありません。
「どのような音楽を奏でたいか」を具現化するための、最も身近な演出ツールであるということを、この経験を通して皆さんにお伝えしたいです。

初心者がまず「楽譜の通り」に弾くべき理由

「指使いは自由だ」と言われると、最初から自分の好きなように弾きたくなるかもしれません。しかし、特に初心者のうちは、まずは楽譜に書かれた指使いを忠実に守ることを強くおすすめします。

なぜなら、初心者の段階では「なぜその番号が指定されているのか」という意図を読み取ることが難しいためです。

一見弾きにくく感じる番号でも、実はその後の大きな跳躍に備えていたり、レガート(音を滑らかにつなげること)を維持するために計算されていたりします。

まずは先人の知恵を借り、その指使いが持つ「意味」を体感することで、テクニックの基礎が養われていきます。

【注意】ただし、稀に楽譜によっては不自然な指使いが混ざっていることもあるため、「書いてある指番号は何が何でも守らなければならない」ということはありません。

「変える勇気」が演奏を自由にする

基本を理解した上で大切にしてほしいのが、自分の手に合わせて指番号を変える勇気です。

手の大きさや指の長さ、関節の柔軟性は人によって千差万別です。世界的なピアニストが推奨する指使いであっても、自分の手にはどうしても馴染まないというケースは必ず起こります。

「書いてある通りに弾かなければならない」という固定観念に縛られ、無理なフォームで弾き続けることは、演奏の質を下げるだけでなく、手を痛める原因にもなりかねません。

どうしても弾きづらいと感じたときは、以下の視点で指番号を見直してみてください。

  • 手の形が不自然に歪んでいないか
  • 次のフレーズへの準備が間に合っているか
  • 出したい音色にその指が適しているか

納得のいく指使いが見つかったとき、そのフレーズはあなたの体の一部となり、より自由な表現が可能になるはずです。

結びに:指使いは音楽への深い理解そのもの

指使いを考えることは、その曲の構造や、自分が作り出したい音の世界を深く見つめ直す作業に他なりません。

楽譜に書かれた数字の背後にある「理由」を探り、時には自分の身体の感覚を信じてカスタマイズしていく。そのプロセスこそが、ピアノ演奏の醍醐味でもあります。

次に新しい曲に取り組むときは、ぜひ指番号一つひとつに「なぜ?」と問いかけてみてください。そこには、あなたの演奏をより輝かせるためのヒントが、たくさん隠されているはずです。

筆者プロフィール:

4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。


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