
「子供の習い事は早ければ早いほどいい」
そんな言葉を耳にするたび、まだ小さなお子様を持つ保護者の方は
「今すぐピアノを始めさせなきゃ遅れてしまうかも」と焦りを感じてしまうかもしれません。
しかし、多くの子供たちにピアノを教えてきた経験から言える結論は、
「早くても4〜5歳(年中さん)、あるいは年長さんからで十分」だということです。
巷では3歳児からのレッスンを掲げる教室も多いですが、焦って早く始めすぎることが、必ずしもその後の上達に直結するわけではありません。
むしろ、お子様の発達段階を無視したスタートは、ピアノを嫌いになる原因を作ってしまうことさえあります。
なぜ「年中・年長」が理想的なタイミングなのか。
そして、早く始めすぎることの意外な落とし穴とは何なのか。
指導の現場で感じるリアルな視点からお話しします。
筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。
「言葉の理解」がスムーズな上達の鍵

レッスンは、コミュニケーションで成り立つ
ピアノのレッスンは、講師と生徒のコミュニケーションで成り立っています。
年中さんから年長さんにかけての時期は、大人の言葉を頭で整理し、自分の体の動きへと変換する能力が飛躍的に高まるタイミングです。
「右手の指を丸くして」「この音は優しく弾いてみて」といった抽象的なアドバイスが、スッと心に届くようになります。
この「理解する力」が備わっているかどうかで、1回のレッスンの密度は劇的に変わります。
言葉が通じると短期間で伸びる
理解が追いつかない年齢で無理に始めて、なんとなく時間を過ごすよりも、言葉が通じるようになってから始めた方が、結果として短期間で多くのことを吸収できるのです。
特に年長さん(5〜6歳)であれば、集中力も安定し、自分の意思で「弾きたい」という意欲も芽生えやすいため、非常にスムーズに導入期を乗り越えることができます。
3歳以下のレッスンが「早すぎる」と感じる理由

小さすぎることのデメリット
一方で、3歳(年少さん)以下でのスタートには、正直なところそこまで大きなメリットを感じられません。
この年齢のお子様にとって、30分間椅子に座り、一つのことに意識を向けるというのは、身体的にも精神的にも非常に大きな負担です。
指導する側としても、言葉が思うように通じないもどかしさを感じることが多く、音楽を教える以前の「座り方」や「集中力の維持」に大半の時間を割くことになります。
それでも早く習い始めさせたいなら
もし、どうしてもこの時期から音楽に触れさせたいのであれば、ピアノという特定の楽器に縛られる必要はありません。全身でリズムを感じる「リトミック」主体の教室に行くのが、発達段階としては最も自然です。
無理をさせると、かえってピアノが嫌いになることも
「早く始めないと才能が伸びないのでは?」という不安もあるかもしれません。
ですが、理解力が追いつかないうちに無理をさせると、
「ピアノは難しい、楽しくない」という苦手意識を植え付けてしまい、かえって将来の可能性を狭めてしまうことにもなりかねません。
筆者の経験談:技術よりも、まずは「音楽を好き」になる土台作りを

私自身、3歳のお子さんを指導した経験がありますが、この時期の子どもを教えるのは想像以上に大変なことです。月齢による成長差も大きく、何より「言葉による理解」がまだ追いつきません。
「ド」の場所を覚えてもらうだけで必死になり、それだけでレッスンが終わってしまうことも珍しくありませんでした。
当時は手を取り、同じことを何度も根気強く繰り返し、1年経ってようやく一人で弾けるようになった時は、言葉にできないほどの感動がありました。
しかし、ある程度成長してから始めれば、これほど時間をかけずとも「ド」の位置はすぐに理解できます。
関節がまだ柔らかく、言葉の疎通も難しい時期から、必死に技術練習をすることにどれほどの意義があるのでしょうか。
小さいうちは、まず音楽を身近に感じて遊ぶだけで十分です。本格的なレッスンはそのあとでも決して遅くありません。
何より大切なのは、技術を詰め込むことではなく「音楽が大好き」という一生の土台を作ってあげることだと、実体験を通して強く感じています。
絶対音感と「6歳の壁」の真実

絶対音感を身につけるのに、3歳からの猛練習は不要
早期教育を急ぐ最大の理由として挙げられるのが「絶対音感」です。確かに、聴覚の発達は6歳頃までにピークを迎えると言われています。
しかし、そのために3歳からピアノを猛練習する必要はありません。
6歳になるまでの間に、ピアノの音に合わせて「ドレミ」で歌うような経験を積み重ねていれば、音感は十分に育ちます。
本格的なピアノの技術習得は、指の力や理解力が追いつく4〜6歳からで全く遅くないのです。
「ピアノに向いていない」というのは早計
「この子はピアノに向いていない」と感じてしまう場面があっても、それは才能の有無ではなく、単に発達段階が追いついていないだけのケースがほとんどです。
あと数ヶ月、あるいは1年待てば、理解力が追いついて驚くほどスムーズに弾けるようになるお子様を、私は何度か見てきました。
7歳(小学生)以降から始めても「音感」は身につく

7歳以降は適切な訓練を
では、小学校に入ってからではもう遅いのかというと、決してそんなことはありません。
たとえ7歳以降にピアノを始めたとしても、適切な訓練と練習を重ねれば、音楽を楽しむのに十分な音感は後からでも身につきます。
幼児期にはない「論理的な理解力」
小学生以降のスタートには、幼児期にはない「論理的な理解力」という強みがあります。楽譜の仕組みを理屈で理解し、効率的に練習を組み立てることができるため、驚くようなスピードで上達する子も珍しくありません。
「もっと早く始めさせておけばよかった」と悔やむ必要はありません。本人が「やりたい」と思ったその時が、その子にとっての最適なタイミングなのです。
まとめ:成長を待つ心の余裕が、ピアノを長く楽しむコツ
ピアノを習い始めるのは、早くても年中さん(4〜5歳)、そして年長さんからでも十二分に間に合います。
- 言葉の理解力が上達のスピードを左右する
- 3歳以下なら、リトミックで音楽の土壌を作るだけで十分
- 6歳までに歌う経験があれば、音感への不安は不要
- 小学生以降でも、訓練次第で技術も音感も身につく
大切なのは、周りと比べて焦ることではなく、お子様が先生の話を理解し、
音楽を心から楽しめる準備ができているかを見極めることです。
あと少し、理解が追いつくのを待ってあげる。その心の余裕が、お子様が一生ピアノを友だちにできるかどうかの分かれ道になるのかもしれません。

筆者プロフィール:
4歳からピアノを始める。音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続けている。

