ピアノを始めると必ず迷うのが、「楽譜はどれを選べばいいの?」という問題です。
実は、楽譜選びは演奏の方向性を決める大切なステップ。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
演奏家の立場から原典版と編集版の違い、そして初心者でも失敗しない楽譜の選び方を分かりやすく解説します。
■ 結論:作曲家に忠実に演奏したいなら原典版、初心者は編集版+原典版の併用が最適
楽譜には、大きく分けて「原典版」と「編集版(編集者が指示を加えた版)」があります。
結論としては、
・作曲家の意図に沿って演奏したい → 原典版
・初心者で弾き方の基礎がまだ不安 → 編集版で練習してOK
・仕上げは原典版も確認 → 間違い防止に最適
この3ステップがもっとも効率的で、後々の解釈の幅も広がります。
■ 原典版とは?
作曲家の意図を最優先した“純粋な楽譜”
原典版は、作曲家が残した資料(自筆譜・初版など)をもとに、編集者の解釈を極力排除して校訂された楽譜です。
原典版の特徴
・余計な指使いやペダルがほとんど入らない
・作曲家の書いたアーティキュレーションが明確
・曖昧な部分もそのまま載せる(それが魅力でもある)
原典版のメリット
・作曲家の意図を深く理解できる
・音楽の“地図“として信頼できる
・演奏の方向性がブレず、仕上がりが洗練される
■ 編集版とは?
初心者が弾きやすい“ガイドつきの楽譜”
編集版は、原典版をもとに編集者が指使い・ペダル・強弱・フレーズなどを書き加えた楽譜です。
編集版のメリット
・指使いやアーティキュレーションが明記されていて弾きやすい
・ペダル指示がわかりやすく、初心者でも形になりやすい
・練習の初期段階で役立つ
編集版の注意点
ただし、編集版は“編集者の解釈”が大きく反映されるため、
・作曲家本来の意図と違うアーティキュレーションが入る
・解釈が固定されてしまう
・ペダルが多すぎて濁る
などのデメリットもあります。
そのため、編集版は参考にする程度が理想です。
■ 原典版の代表的な出版社とおすすめ
目的・作曲家に合わせてベストな版を選ぶ
● ドイツ系(バッハ・ベートーヴェンなど) → Henle(ヘンレ版)
落ち着いた深い青の表紙が目印。
校訂の精度が非常に高い。
ベートーヴェンのソナタは分厚くて重いが、音大生はこぞって使用。
● モーツァルト → Bärenreiter(ベーレンライター版)
モーツァルト作品で最も信頼されている原典版。
校訂が丁寧で、最新研究に基づいた内容。
音大生・演奏家の使用率が非常に高い。
● フランス系(ドビュッシーなど) → Durand(デュラン版)
フランス音楽独特のニュアンスが反映されやすい。
特にドビュッシーはデュラン版の使用が定番。
● ショパン → エキエル版(National Edition)
近年、最も信頼されているショパンの原典版。
細かい装飾音やニュアンスの研究が深く、最近の音大生の定番。
■ 楽譜選びで失敗しないポイント
初心者は「編集版+原典版のセット使い」が最も安全
初心者にとっては編集版の指示は大きな助けになります。
しかし“編集者のクセ”が混じるため、最終的には原典版で確認するのがおすすめです。
① 日々の練習 → 編集版でOK
・弾き方がわかりやすい
・ペダルも迷いにくい
・指使いがあるので効率が良い
② 曲を仕上げる段階 → 原典版で確認
・アーティキュレーションの誤りを防ぐ
・編集者の解釈に引っ張られすぎない
・より深い音楽づくりができる
この併用方法が、初心者〜上級者まで広く使える“王道の楽譜選び”です。
■いろいろな楽譜を見て考えを深める |筆者の経験談
今の時代、たくさんの楽譜が溢れていて、
どれを選んだらいいのか分からないことも多いと思います。
私自身、すべての楽譜を見ることができているわけではありません。
今回の記事はあくまで、私含め音楽を学ぶ人がよく使う楽譜ということで、紹介しました。
私が練習する時は、原典版を主に使いますが、参考に他の版の楽譜も見ます。
編集版は「なるほど」と思う解釈もあり、参考になります。(すべてが素晴らしいとは言えませんが)
一つの解釈に固執せず、いろいろな楽譜を見ることで、自分の考えが明確になっていきます。
大学の時に師事していた先生からも都度言われていました。「いろいろな楽譜をみなさい」と。
複数の楽譜をみることは少し手間がかかる作業ですが、
新しい発見ができるのでとてもおすすめです。
~余談~
今はiPadなどで楽譜をデータ化して持ち運ぶことも可能ですが、
私が学生の時はそのようなものはなかったので、
・分厚くて重たいベートーヴェンのソナタのHenle版
・ショパンの練習曲集(当時はパデレフスキ版)
・バッハの平均律クラヴィーア曲集のHenle版
をリュックに入れて持ち運んでいました。
それでよく肩凝りになっていたのが懐かしいです。
■ まとめ|楽譜選びは演奏の方向性を決める最重要ポイント
楽譜選びは、ただの準備作業ではなく音楽の軸を決める行為です。
・原典版 → 作曲家の意図を忠実に再現したい人
・編集版 → 初心者や弾きやすさを重視したい人
・両方併用 → 最も効率よく本質を学べる方法
作曲家ごとに最適な出版社を知るだけでも、演奏のクオリティは大きく変わります。
ぜひ、あなたの演奏に合った“正しい楽譜選び”で、音楽をもっと深く楽しんでください。



コメント