ピアノ学習者の間でよく聞かれる悩みのひとつが、
「メトロノームを使うと機械的になりませんか?」
というものです。
結論から言えば、
メトロノームは“使い方次第で”最強の味方にも、最大の敵にもなるアイテムです。
「機械弾きになりそうだから使わない」
と敬遠する人もいますが、それは実はとても危険。
もし気づかないうちにテンポが走っていたら?
遅れる癖がついていたら?
それに気づける方法は、意外と多くありません。
テンポのゆらぎや癖を“客観的に見せてくれる道具”として、
メトロノームほど強力なものはないのです。
4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、
ピアノ演奏におけるメトロノーム使用の誤解と正しい使い方について、お話しします。
■ メトロノームを使わないことで起こる「もっと危険なこと」
「機械弾きになりそう」という心配は、確かに一理あります。
しかし、まったく使わずに練習をしていると、ある日ふと録音を聞いて気づくことがあります。
走っている。
遅れている。
テンポを一定に保てていない。
しかもそれを自分で“気づけていなかった”という事実が、とても危険です。
とくに古典派のように、大きくテンポを揺らすことを前提としていない作品では、
テンポの安定感は演奏の説得力に直結します。
だからこそ、
テンポを確認するための客観的な基準として、メトロノームは欠かせません。
■ 機械弾きになるのは「使い方」が間違っているから
一方で、
「メトロノームにひたすら合わせ続ける練習」をしてしまうと、確かに危険です。
- 拍子の流れを感じない
- フレーズの方向を考えない
- 和声の変化を無視する
- 音楽の呼吸が消える
これでは、まさに機械的。
盲目的な使用は、音楽を壊す。
これは確かにその通りです。
必要なのは、
“楽譜と向き合いながら”メトロノームを使うこと。
どうすれば自然に流れるのか?
どこが走りやすいのか?
どこに重心があるフレーズなのか?
これを考える力がないまま、ただカチカチ鳴らして合わせていると、
機械弾きどころか「音楽と呼べない」ものになります。
■ ピアノから離れる時間も、実は大切
メトロノームを正しく使おうと思ったら、
ピアノを弾かない時間がむしろ鍵になることがあります。
座ったまま譜面を見るだけの時間。
拍を感じながらフレーズを追う時間。
和声の流れを理解する時間。
こうした“準備”があるからこそ、
メトロノームを使ったときに音楽が整い、意味のある練習になります。
■ メトロノームが最も威力を発揮する場面
そしてもうひとつ、メトロノームが最も有効なのは、
“ゆっくり→少しずつテンポアップ”の練習法。
これは技術的に難しい箇所に対して非常に有効で、
多くの上級者・プロも実は当たり前のように行っています。
使い方のポイントは2つ。
◎ ① 少しずつメモリを上げる
いきなりテンポは上げません。
5〜10くらいずつ(場合によってはもっと細かく)
段階を踏むのが鉄則です。
◎ ② 弾けなかったら、潔くテンポを戻す
ここが最重要。
まだ定着していないのに無理に速くすると、
- 変なクセ
- 無駄な力
- 雑な打鍵
…が積み重なり、後で確実に苦しみます。
弾けるテンポに戻して、もう一度丁寧に積み直す。
これが上達への最短ルートです。
“何のために”使うのか考える|筆者の経験談
自分ひとりで弾いていると、ついテンポが速くなってしまっていたりすることは、私にもよくあります。
特に本番などの緊張する場面では、心臓の鼓動の速さとともに演奏の速度も上がっていく、
という現象を何度も経験しました。
あらかじめ、メトロノームで演奏スピードを決めておいて、本番前に少し確認する。
そうするだけで、緊張して鼓動が速くなってもある程度テンポのコントロールをすることができます。
メトロノームには、こういった使い方もできるのです。
どの道具を使うにしても同じことが言えますが、
「“何のために”それを使うのか」ということを明確にしなければ
道具を“使う”のではなく、道具に“使われる”ようになってしまいます。
メトロノームは良き相談相手であり、良き友達。
これからも、私はそのようにメトロノームを有効活用していきたいです。
■ まとめ|メトロノームは“正しく使えば”音楽を助ける味方
メトロノームは、
機械弾きになる道具ではありません。
機械弾きになるのは、使う側が「音楽を考えていない」から。
メトロノームの本来の役割は、
- テンポの客観的チェック
- 走り・遅れの癖の可視化
- ゆっくり練習の段階アップ
- 安定した拍感の育成
ここにあります。
音楽を育てるために必要なのは、
メトロノームを避けることではなく、メトロノームを理解して使うこと。
今日からぜひ、
“音楽のためのメトロノーム”
という視点で練習に取り入れてみてください。



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