♯103 【ピアノ】弱音こそ最高の表現力。どんなに小さくても“芯のある音”で弾く理由

練習法と上達のヒント

ピアノで弱い音を出すことは、実は強い音よりずっと難しい——。
レッスンでも、演奏でも、この感覚に悩む人はとても多いです。

しかし、弱音はピアノの表現に欠かせない大切な要素。
そして何より、弱音には、人の心をぐっと引き寄せる力があるのです。

今回の記事では、4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、

弱音の価値と、音を小さくしても響きが失われないための考え方をお伝えします。


■ 弱音でも「鍵盤の下まで弾く」ことが絶対に必要

弱い音を出そうとすると、
つい鍵盤の上のほうだけを触ってしまいがちです。

しかし、この弾き方では…

  • 音が軽くなる
  • 雑音が混ざる
  • かすれた音になる
  • 温度のない「ただ小さいだけの音」になる

という状態に陥りやすくなります。

弱音にする時ほど、鍵盤の底(底床)までしっかり触れて弾くことが必須です。

◎ 弱く弾く=力を抜く、ではない

力みを抜くことは大事ですが、
「指先のコントロール」まで抜けてしまってはいけません。

弱音であっても、
指先が鍵盤に“最後まで触れきる”ことで、はじめて芯のある響きが生まれます。

弱くても密度のある音。これが本当の弱音の魅力です。


■ 弱音には「人をひきつける力」がある

弱音には、不思議なエネルギーがあります

  • 思わず耳を近づけたくなる
  • その空気の変化に気づいて緊張感がうまれる
  • 音楽の方向性が変わる瞬間になる
  • 感情の“ひそやかな動き”がよく伝わる

演奏会で、
ホールの空気が変わる瞬間は、多くの場合「弱音」です。

小さい音は、実は強い音よりも存在感がある。

それは、聴き手の意識が音の細部に集中するからです。

弱音のコントロールができると、演奏全体の説得力が一気に上がります


■ 弱音が難しいのは「タッチと呼吸のコントロール」が必要だから

弱音は単に力を入れないのではなく、
“スピードを調整して鍵盤の底まで弾く”必要があります。

弱音が難しいと感じる理由はここにあります。

  • 指の重さのコントロール
  • 腕の重心の位置
  • 鍵盤に触れるスピード
  • フレーズの方向
  • 呼吸とテンポの関係

これらすべてを繊細に扱わないと、
弱音は濁ってしまったり、かすれたりしてしまいます。

また、弱音は「緊張」とも関係が深く、指が固まるとスピード調整ができません。

弱音で美しい音を出せるのは、
心身ともにリラックスして音と向き合えている証拠です。


■ 芯のある弱音のための練習アイデア

今日からできる、簡単で効果的な練習を紹介します。

◎ ① 鍵盤の底までゆっくり落とす練習

小さな音のまま、鍵盤の底に“そっと”到達する意識。
どこまでなら弱い音が出せるのか試してみましょう。

◎ ② 3音だけで「小さくても方向のある音」を作る

弱音でもフレーズの方向性が必要です。
どこに向かっているのか明確にしましょう。

◎ ③ 片手でメロディを弱音で歌わせる

芯のある弱音が出せると、片手のメロディが急に美しくなる。
音がかすれていたりしないか、耳を使ってよく聴きましょう。


忘れられない音|筆者の経験談

あれは、2021年6月3日にサントリーホールで行われたバレンボイムのコンサート。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番、31番、32番と、
いわゆる「後期三大ソナタ」と呼ばれている作品たちを、生で聴きました。

私はそのときの演奏会でバレンボイムが出した弱音が、今でも忘れられません

透き通る音でありながら、どこまでも届いていきそうな音。
あの広い空間でとてつもない存在感を放ち、聴いている人をひきつけて放さないような弱音でした。

それは音量だけではなく、空間や時間も操っていたからだとは思うのですが、
あんなに美しい弱音を聴いたのは、人生初めてでした

私自身もそのような弱音を目指して日々試行錯誤していますが、まだ理想の音を思うように再現することはできていません。
それでも、いつか必ず出せるように、これからも探求を続けていきたいと思います。


■ まとめ|弱音が上達すると演奏が一段と洗練される

弱音を丁寧に扱うことは、
ピアノ演奏のレベルを一段上げる大きな鍵です。

  • 弱音でも鍵盤の下まで弾く
  • 芯のある音を意識する
  • 小さい音ほど空気を変える力がある
  • 弱音は繊細で難しいが、だからこそ価値がある

強い音より、弱い音のほうが“技術の質”があらわれます。

弱音を磨くことは、あなたの演奏をより魅力的にし、
聴く人の心を深く引きつける力になります。


お知らせ

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