♯89 緊張することは悪くない──集中と感情の関係

演奏活動と発信の裏側

ピアノの本番。
舞台袖で手が冷たくなり、心臓が速く打つ──そんな経験をした人は多いと思います。
「また緊張してしまった」「落ち着いて弾けなかった」と自分を責めてしまうこともありますよね。

ですが、実は緊張することは悪いことではありません。
むしろ、緊張の中には“集中”と“感情”が宿っています。

4歳からピアノを始めて音高・音大・音大の院に進み、大人子ども含め累積約50名以上にピアノを教え、現役で演奏活動を続ける筆者が、

ピアノ演奏における緊張との向き合い方を解説します。


人が緊張するとき、それは本番を「大切に思っている」証拠です。
何も感じない演奏よりも、少し手が震えるくらいの気持ちでピアノに向かう方が、
音に熱やエネルギーが宿ります。

実際、スポーツ心理学の研究でも「適度な緊張は集中力を高める」といわれています。

スポーツ心理学の「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」によると、
適度な緊張は集中力を高め、最高のパフォーマンスを引き出すといわれています。

ピアノの本番も同じ。
ステージで感じる鼓動の速さは、心が“今”に集中しているサインなのです。

大切なのは、「緊張を消そう」とするのではなく「緊張と一緒に弾く」こと。

舞台で感じる張りつめた空気の中に、自分の集中が生まれているということに気がつければ、
その緊張はむしろ味方になります


緊張すると、音の一つひとつが敏感に感じる瞬間があります。
ペダルの響き、ホールの残響、鍵盤の重み──
普段よりも感覚が研ぎ澄まされているのです。

それは、心が“生の音”に全身で反応している状態。
その瞬間にしか出せない音があります。
本番の音には、練習では出せない呼吸や温度が宿る。

だから、緊張して出た音も含めて、それが“今の自分の音”
それを受け入れることで、次の演奏がもっと自然になります。


緊張と上手につき合うためには、身体と心の準備も大切です。
本番前におすすめの方法を3つご紹介します。

① 呼吸を意識する

舞台袖やリハーサル中に、深くゆっくりと息を吸い、吐くだけでOK。
呼吸を整えると、自然と筋肉の力も抜け、集中が戻ります。

体を軽くほぐすストレッチも行うとよいでしょう。

② 自分が出す「音」に意識を向ける

自分の心ではなく、“目の前の音”に意識を集中させてみましょう。
緊張している自分にとらわれるのではなく、耳にフォーカスすると過剰な緊張が減ります。

③ 「緊張している自分」を否定しない

「また緊張してる」と焦るほど、体はこわばります。
「緊張するくらい、私は真剣なんだ」と思うだけで、その状態を受け入れられるようになります。


ステージで緊張を感じるとき、私たちはただ不安なだけではありません。
心が動いているからこそ、音に命が宿るのです。

感情が揺れる瞬間にこそ、音楽は人の心に届きます。
完璧な演奏よりも、心の震えを含んだ音の方がずっと深く聴く人の心を打ちます。

緊張は、演奏家にとっての敵ではなく、
「本気で音に向き合っている自分」からのメッセージなのです。


私も演奏前に緊張しなかった本番はありません。
緊張しなかった本番があるとするなら、無邪気にただピアノを弾いていた幼少期の頃だけです。

最近では、緊張すると演奏中に足が震えるようになりました
足が勝手に小刻みに震えてしまうのです。

最初は、「足が震えてしまった、どうしよう」という考えが演奏中頭に張り付いてしまって、良い演奏ができないこともありました。
ですが、なにかのネット記事で見た方法を試したら、足が震えても動じなくなりました。

それは、

・はじめから「演奏中足は震える」ということを想定しておく。
・実際に演奏中に足が震えだしたら、「やっぱり足が震えてきた。でも想定内。」と言い聞かせる。

「もとから足が震えるもの」と思っているので、いざそうなってしまっても動じることなく、目の前の演奏に自然と集中でき、いつしか足の震えは止まっていました。

私の場合は「足の震え」でしたが、本番前や演奏中の緊張・不安についても同じことがいえると思います。

「緊張や不安な気持ちは当たり前で、想定内。」
こう思うだけで、不思議と心が少し落ち着くはずです。


ピアノ本番での緊張は、誰にでも訪れる自然な反応です。

それを排除しようとせず、受け入れながら集中へと変えていく。
そのプロセスの中で、音は少しずつ“自分らしさ”を増していきます

心が動けば、音も動く。緊張はその証。
今日もその“ドキドキ”を大切に、ピアノに向かってみませんか。

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